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スペイン旅行 4日目 その1
2015年2月16日 鉄道と旅行
レコンキスタ終焉の地。
・アルハンブラ宮殿
朝の町は霧に包まれていた。予報では晴天だが、まだ日が昇って間もないはずの空は灰青色である。9時半に宮殿に入ることになっているので、それに合わせて宿を発ち、丘の頂上を目指してひたすら坂道を登っていく。チケット売り場からは遠く離れた裁きの門から城壁の内側に入り、ナスル朝宮殿の入口に並んだ。北側に目をやると、高く昇り始めた太陽と共に、町を覆い尽くしていた霧がアルバイシンの丘を駆け上がってゆく。霧の晴れ間には水色の空がのぞき、すがすがしい。まるで、3か月前の磐越西線の朝を彷彿させるような一日の始まりである。あの時も、立ち込めていた川霧がふっと水面から浮かび上がり、空へと散っていったのだった。
宮殿の内部は、これでもか、これでもか、というくらいの圧倒的な幾何学紋様に装飾されている。倉庫のような建物の外観からはまるで想像がつかない。よくぞここまで緻密に壁を彫り込んだものだ。無数の凹凸、規則的な模様、数学的な造形が織りなす質感と空気感は筆舌に尽くしがたい。正多角形、星芒形、円弧、すべてが一体となって美しい。写真に撮ると、実際に受容する感覚の大部分が失われてしまうのが残念ではある。パリのヴェルサイユとは全くもって別種の豪華絢爛建築で、個人的な趣味としてはこのアルハンブラの方に魅かれるものがある。対称性とか完全性という部分では両者は共通しているのだが、極めて微小な部分に徹底的にこだわりながらも、それが微小な領域に留まることなく結果として崇高な全体を作り上げているというところが魅力的である。それはまるで、微細な細胞組織が集まりに集まって人体という統合体を形成する現象と似ているではないか。一部にこだわることは、ともすれば全体を見失うことにつながりかねない。ところが、作り込まれた細部が単に寄せ集まっているのではなくて、あくまで俯瞰的な視点を維持しながら均衡と調和をもって細部が作り込まれているという点に、何とも心惹かれるのだ。
空は青く晴れ渡り、コマレス(Comares)の塔が青い池の水鏡に映し出される。ライオンの中庭は王族が暮らした宮殿の中枢部で、とくに二姉妹の間の天井が美しい。往時はアルバイシンが一望できたというリンダラハ(Lindaraja)のバルコニーを横目に、階段を下りて宮殿を後にする。出口の先は庭園になっている。ここから先は夏の離宮であるヘネラリフェ(Generalife)を目指し、丘の尾根に沿って城壁のそばを歩いていく。だんだん遠くなってゆく宮殿は、相変わらず質素な外観である。アセキア(Acequia)の中庭は細長い池と噴水が絵になる庭園で、水が作る何条もの放物線がぴったりと整列しているさまが面白い。至るところにオレンジの木が植えられているのは、たまたまなのか、それとも何か宗教的な意味があるのか。いずれにせよ、周囲の建築とも相まってヨーロッパ的な世界とは一味違った趣を見せている。最後は水の階段を登り、ヘネラリフェを後にした。
朝に入ってきた裁きの門へ戻る途中、Lagunaという寄木細工の専門店でおみやげを買う。寄木細工はグラナダの名産品である。昨日ビブランブラ広場をうろうろしていたときも同様のみやげを見つけたのだが、この店の商品の一部はプラスチックやコーティングを使わない上質な作りを売りにしていて、確かにそういう品は値段も高い。白い部分はウシの角を使っているという。ここは廉価版にするかどうか散々迷った末に、やはりせっかくなので40€の小箱を購入。グラナダの良い思い出になろう。
カトリック両王の孫が建設した、ルネサンス様式が異質なカルロス(Carlos)5世宮殿を軽く見回ってから、最後に西端のアルカサバ(Alcazaba)を訪れた。ここは宮殿を護る軍事要塞として機能した砦で、アルハンブラの中でも最も古い部分とされる。気が付けばもう正午をとうに過ぎている。石造りの塔に登り、午前中に比べるとやや空気が霞んできたグラナダの町を眺める。西を見れば、昨日訪れた王室礼拝堂とカテドラルの存在感が大きい。北西の方角には国鉄の駅。どうやらかなり小さな規模の構内と見える。そして北側にはアルハンブラの町。ここだけ町並みが特異で、白壁の家々が丘の斜面にへばりつくように密集しているのだった。
写真
1枚目:コマレスの塔
2枚目:二姉妹の間
3枚目:ヘネラリフェ
1913文字
2/16
徒歩による移動
アルハンブラ(Alhambra)宮殿
・アルハンブラ宮殿
朝の町は霧に包まれていた。予報では晴天だが、まだ日が昇って間もないはずの空は灰青色である。9時半に宮殿に入ることになっているので、それに合わせて宿を発ち、丘の頂上を目指してひたすら坂道を登っていく。チケット売り場からは遠く離れた裁きの門から城壁の内側に入り、ナスル朝宮殿の入口に並んだ。北側に目をやると、高く昇り始めた太陽と共に、町を覆い尽くしていた霧がアルバイシンの丘を駆け上がってゆく。霧の晴れ間には水色の空がのぞき、すがすがしい。まるで、3か月前の磐越西線の朝を彷彿させるような一日の始まりである。あの時も、立ち込めていた川霧がふっと水面から浮かび上がり、空へと散っていったのだった。
宮殿の内部は、これでもか、これでもか、というくらいの圧倒的な幾何学紋様に装飾されている。倉庫のような建物の外観からはまるで想像がつかない。よくぞここまで緻密に壁を彫り込んだものだ。無数の凹凸、規則的な模様、数学的な造形が織りなす質感と空気感は筆舌に尽くしがたい。正多角形、星芒形、円弧、すべてが一体となって美しい。写真に撮ると、実際に受容する感覚の大部分が失われてしまうのが残念ではある。パリのヴェルサイユとは全くもって別種の豪華絢爛建築で、個人的な趣味としてはこのアルハンブラの方に魅かれるものがある。対称性とか完全性という部分では両者は共通しているのだが、極めて微小な部分に徹底的にこだわりながらも、それが微小な領域に留まることなく結果として崇高な全体を作り上げているというところが魅力的である。それはまるで、微細な細胞組織が集まりに集まって人体という統合体を形成する現象と似ているではないか。一部にこだわることは、ともすれば全体を見失うことにつながりかねない。ところが、作り込まれた細部が単に寄せ集まっているのではなくて、あくまで俯瞰的な視点を維持しながら均衡と調和をもって細部が作り込まれているという点に、何とも心惹かれるのだ。
空は青く晴れ渡り、コマレス(Comares)の塔が青い池の水鏡に映し出される。ライオンの中庭は王族が暮らした宮殿の中枢部で、とくに二姉妹の間の天井が美しい。往時はアルバイシンが一望できたというリンダラハ(Lindaraja)のバルコニーを横目に、階段を下りて宮殿を後にする。出口の先は庭園になっている。ここから先は夏の離宮であるヘネラリフェ(Generalife)を目指し、丘の尾根に沿って城壁のそばを歩いていく。だんだん遠くなってゆく宮殿は、相変わらず質素な外観である。アセキア(Acequia)の中庭は細長い池と噴水が絵になる庭園で、水が作る何条もの放物線がぴったりと整列しているさまが面白い。至るところにオレンジの木が植えられているのは、たまたまなのか、それとも何か宗教的な意味があるのか。いずれにせよ、周囲の建築とも相まってヨーロッパ的な世界とは一味違った趣を見せている。最後は水の階段を登り、ヘネラリフェを後にした。
朝に入ってきた裁きの門へ戻る途中、Lagunaという寄木細工の専門店でおみやげを買う。寄木細工はグラナダの名産品である。昨日ビブランブラ広場をうろうろしていたときも同様のみやげを見つけたのだが、この店の商品の一部はプラスチックやコーティングを使わない上質な作りを売りにしていて、確かにそういう品は値段も高い。白い部分はウシの角を使っているという。ここは廉価版にするかどうか散々迷った末に、やはりせっかくなので40€の小箱を購入。グラナダの良い思い出になろう。
カトリック両王の孫が建設した、ルネサンス様式が異質なカルロス(Carlos)5世宮殿を軽く見回ってから、最後に西端のアルカサバ(Alcazaba)を訪れた。ここは宮殿を護る軍事要塞として機能した砦で、アルハンブラの中でも最も古い部分とされる。気が付けばもう正午をとうに過ぎている。石造りの塔に登り、午前中に比べるとやや空気が霞んできたグラナダの町を眺める。西を見れば、昨日訪れた王室礼拝堂とカテドラルの存在感が大きい。北西の方角には国鉄の駅。どうやらかなり小さな規模の構内と見える。そして北側にはアルハンブラの町。ここだけ町並みが特異で、白壁の家々が丘の斜面にへばりつくように密集しているのだった。
写真
1枚目:コマレスの塔
2枚目:二姉妹の間
3枚目:ヘネラリフェ
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