第5週

2014年7月31日 留学
第5週
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総括
長いように思われた実習もついに終わりを迎えることとなった。始まってしまえば、本当にあっという間である。率直な感想としては全てが期待通りの実習というわけではなかった。思い描いていたものと異なる現実に直面し、それを一つ一つ解決しようと苦悩の毎日を過ごしてきた。ところが、淡桃色に包まれた中世の回廊や、白で統一されたカタツムリ型の螺旋回廊にひとり佇み、異邦で暮らした7月の日々を振り返ってみても、なかなか明確なetiologyは見えてこない。英語力、医学知識、性格、思考。どれもそれなりの割合で寄与はあろう。ここで他人や環境のせいにするのは極めて安直で簡単なことだから、その方面への検索はなるべく避け、自己責任という名のetiologyを具体的な形で見出すべく努力を重ねてきた。しかし大変残念ながら、visiting student-unfriendlyという事実は客観的に認めざるを得ない。こればかりは運任せであり、自力ではどうにもならないものだった。温かな幸運に恵まれる人もいる一方で、幾多もの艱難に悶え苦しむ人もいるのだ。会った人間と過ごした環境は、異邦の印象を大きく左右する。したがって誰もが何かしらの色眼鏡をかけて故郷に帰るわけだが、どうやら自分は分厚くて暗いレンズを持って帰ることになりそうだ。

しかし、必ずしも全ての経験が薔薇色であるとは限らないし、またそうである必要もない。長い目で見れば、この一か月が今後の人生の糧となったことは間違いないと感じている。苦い経験やお会いした各先生方の話を総合的に踏まえると、いわゆる「国際的に通用する」の何たるかを身をもって感じたというのは今回の短期留学の最大の収穫だった。実力主義という言葉がぴったり当てはまるこの国でゼロからスタートし、native English speakerと同じ土俵で戦い、上を目指して行くというのは極めて険しい道のりである。その観点からすれば、異邦人として、まして実績も何もないただの学生として暮らした今回の自分は無力であったの一言に尽きるということだ。

とくに、言葉の壁が永久につきまとう。英語に自信があっても、である。「言葉は慣れだから、仕事上もだんだん問題にならなくなる」は、もちろん正しい。しかし重要なのは、どのレベルで満足と考えるかということだ。臨床医とは、言葉を巧みに操る高度なコミュニケーション技術を必要とし、時には感情の機微を解し、人間の心情の奥深くまで踏み込んだsensitiveな内容をも扱う特殊な職種である。自分は何をしても決してnative English speakerにはなり得ないのだから、その時点で圧倒的不利を強いられる。意思疎通ができれば良い、という水準では彼らと本当の勝負はできないと個人的には思うのだ。したがって同じ土俵で戦うというのなら、言葉の壁をはるかに凌駕するほどの何らかの実力、実績が求められる。

「アメリカの医療技術は世界の最先端を行っている。それに比べて日本は遅れている」と、みな口を揃えて言う。悔しいことだが、それは正しい。事実だ。しかし、「だから日本を見限ってアメリカでexcitingな最先端をやっていくことに意味がある」というのは、まあ理解できなくもないが、動機としては少々違うのではないか。日本の先進性は、先人たちの血の滲むような努力に支えられている。むしろその努力を継承し、我々が最先端となるべく先頭に立って尽力するのが使命ではないのか。「国際的に通用する」力が求められるのはまさにこの局面であり、身を置く国を問わずあらゆる物事を積極的に吸収し、然るべき場で意見を表明し、議論を戦わせていかねばならないと思っている。

ロックフェラー・センター(Rockfeller Center)
木曜の夜はロックフェラー・センターの展望台に登る。初旬に行ったエンパイア・ステートに比べると高さは劣るが、時間指定の前売券でほとんど並ばずに入れた上に、職員もはるかに感じが良かった。さて、北側に広がるセントラルパークはマンハッタン島に敷かれた緑色の絨毯のようであり、南側には正面にどかんとエンパイア・ステート、そのさらに向こうには新生WTCの摩天楼も見える。展望デッキの設計も上手い具合にできていて、ガラスの壁が張り巡らされた中段があたかも転落防止の緩衝地帯のように機能することで、最上段は邪魔なガラスや柵のない開放的な構造となっている。夜景が狙いなので、日没を挟んだ前後2時間くらいをデッキでうろつく。刻一刻と表情を変えてゆく黄昏の空は、いつ見ても心打たれるものである。

写真
1枚目:セントラルパーク
2枚目:黄昏時
3枚目:マンハッタンの夜

2010文字

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