北海道撮影行 3日目 朝
2014年6月5日 鉄道と旅行
朝は早い。
・サプライズ
アラームの前に、目が覚めた。もう部屋の中はうっすらと明るくなっている。カーテンを開けると、曇天の夜明けであった。スリッパの音が、パタパタと廊下に響き渡る。誰にも見送られぬまま、4時過ぎに宿を後にした。目指すは社台牧場通り踏切。2月にも訪れた場所だ。この季節、この時間帯、すっきりと晴れれば列車の正面に日が差し込むはずなのだが、残念ながら今日は期待できなさそうだ。昨夜の名残だろうか、辺りはうっすらと朝靄に包まれている。それでも、下りはまなすの姿を収められるのは今しかない。
緊張が走る。わざわざ白老に宿を取ったのも、この撮影のために他ならない。ついにファインダーの中に列車が現れたとき、何となしに違和感を覚えたのだが、その正体に気が付いたのは、無我夢中で後追いの姿を見届けた後であった。写真を再生すると、何とDD51が重連で牽いているではないか。おそらく検査か何かの都合で次位の機関車は無動力だったと思われるが、それにしても面白い絵だ。しかし、余韻に浸っている時間はあまりない。室蘭街道、そして胆振国道を一路西へ進まねば。その距離、およそ80kmである。
・シグモイド
室蘭や伊達紋別の市街地は混雑するかと思いきや、早朝の国道は予想以上に空いていた。室蘭から先は通い慣れた道である。こう何度も往復していると、自然と沿道の景色が目に焼き付いてくるものだ。早朝の快適な運転を楽しむ。たどり着いたのは、初日にロケハンしておいた大岸~豊浦のS字カーブ。ド逆光の中、臨時の北斗を撮った場所である。ここは編成が短すぎると絵にならないし、逆に長すぎても尻が切れてしまう。しかし次にやって来るトワイライトエクスプレスは、まさに絶好の被写体というわけだ。
現地に着いて改めて作例を厳密に検討していくと、理想的な立ち位置は非常に限られてくることが分かる。数歩動くだけで、少し屈むだけで、画面から受ける印象はがらりと変わる。この幾何学的な精密さ、繊細さも、鉄道写真の醍醐味の一つといえよう。それに、事前の下調べや綿密な計算と、当日の天候や車両運用といった不確定要素とのバランスが何とも絶妙だから、不思議な中毒性があるのだ。一つとして同じ写真はない。いつの間にか空は晴れ渡っていた。濃緑の客車を牽くDD51の重連は満面の笑みを浮かべて登場した。S字カーブの上で身をよじらせる客車列車の造形は、想像以上の美しさであった。
・ストレート
いよいよ、車を使った撮影もこれで最後になる。次なる目標は北斗星。トワイライトの20分後の貨物まで粘った後、S字カーブを後にした。国道に戻り、また一つ山を越える。このまま道なりに進んでも良いのだが、せっかく時間もあるから、大岸の集落を経由して海岸沿いに礼文へ向かうことにした。岩場を切通しにした狭い道路は、一昨年の佐渡島の外海府海岸のそれを彷彿させる。やがて道は線路と共に内陸へ舵を切る。ここから静狩までの海岸線は至って険しい地形が連続し、人の住むところではない。鉄道と国道は内陸の山々を長いトンネルで貫通している。
なぜ、礼文という駅名になったのだろう。礼文華(れぶんげ)という美麗な地名があるのに。駅を通り過ぎ細道に逸れてからしばらく進むと、礼文華山トンネルを出た室蘭本線が一直線に走ってくる地点に到着する。ここから先は、本当に深い山奥なのだ。わずかながらも熊の恐怖を感じつつ、車の鍵を開け放しにして、線路脇でカメラを構える。やはり非電化の線路はすっきりとしていて美しい。北海道の6月は、眩しいばかりの鮮やかな緑に彩られている。そこに、青い流星がぱーっと一筋。先ほどのように趣向を凝らしたカーブも良いが、ストレートこそ列車の魅力を「ストレートに」伝えてくれるものだ。
写真
1枚目:はまなす(@白老~社台)
2枚目:トワイライトエクスプレス(@大岸~豊浦)
3枚目:北斗星(@小幌~礼文)
2067文字
6/5
レンタカーによる移動
撮影(白老~社台 社台牧場通り踏切)
?レ[433] 単機 DF200-59
3087レ[442] 貨物 DF200-6
201レ[447] 急行はまなす DD51 1102+DD51
撮影(大岸~豊浦 S字カーブ)
470D[652] 普通 キハ150
475D[654] 普通 キハ40
8001レ[712] 特急トワイライトエクスプレス DD51 1143+DD51
477D[725] 普通 キハ40
3057レ[731] 貨物 DF200-119
撮影(小幌~礼文 礼文華山トンネル抜け)
1レ[847] 特急北斗星 DD51 1100+DD51
2051レ[857] 貨物 DF200-109
・サプライズ
アラームの前に、目が覚めた。もう部屋の中はうっすらと明るくなっている。カーテンを開けると、曇天の夜明けであった。スリッパの音が、パタパタと廊下に響き渡る。誰にも見送られぬまま、4時過ぎに宿を後にした。目指すは社台牧場通り踏切。2月にも訪れた場所だ。この季節、この時間帯、すっきりと晴れれば列車の正面に日が差し込むはずなのだが、残念ながら今日は期待できなさそうだ。昨夜の名残だろうか、辺りはうっすらと朝靄に包まれている。それでも、下りはまなすの姿を収められるのは今しかない。
緊張が走る。わざわざ白老に宿を取ったのも、この撮影のために他ならない。ついにファインダーの中に列車が現れたとき、何となしに違和感を覚えたのだが、その正体に気が付いたのは、無我夢中で後追いの姿を見届けた後であった。写真を再生すると、何とDD51が重連で牽いているではないか。おそらく検査か何かの都合で次位の機関車は無動力だったと思われるが、それにしても面白い絵だ。しかし、余韻に浸っている時間はあまりない。室蘭街道、そして胆振国道を一路西へ進まねば。その距離、およそ80kmである。
・シグモイド
室蘭や伊達紋別の市街地は混雑するかと思いきや、早朝の国道は予想以上に空いていた。室蘭から先は通い慣れた道である。こう何度も往復していると、自然と沿道の景色が目に焼き付いてくるものだ。早朝の快適な運転を楽しむ。たどり着いたのは、初日にロケハンしておいた大岸~豊浦のS字カーブ。ド逆光の中、臨時の北斗を撮った場所である。ここは編成が短すぎると絵にならないし、逆に長すぎても尻が切れてしまう。しかし次にやって来るトワイライトエクスプレスは、まさに絶好の被写体というわけだ。
現地に着いて改めて作例を厳密に検討していくと、理想的な立ち位置は非常に限られてくることが分かる。数歩動くだけで、少し屈むだけで、画面から受ける印象はがらりと変わる。この幾何学的な精密さ、繊細さも、鉄道写真の醍醐味の一つといえよう。それに、事前の下調べや綿密な計算と、当日の天候や車両運用といった不確定要素とのバランスが何とも絶妙だから、不思議な中毒性があるのだ。一つとして同じ写真はない。いつの間にか空は晴れ渡っていた。濃緑の客車を牽くDD51の重連は満面の笑みを浮かべて登場した。S字カーブの上で身をよじらせる客車列車の造形は、想像以上の美しさであった。
・ストレート
いよいよ、車を使った撮影もこれで最後になる。次なる目標は北斗星。トワイライトの20分後の貨物まで粘った後、S字カーブを後にした。国道に戻り、また一つ山を越える。このまま道なりに進んでも良いのだが、せっかく時間もあるから、大岸の集落を経由して海岸沿いに礼文へ向かうことにした。岩場を切通しにした狭い道路は、一昨年の佐渡島の外海府海岸のそれを彷彿させる。やがて道は線路と共に内陸へ舵を切る。ここから静狩までの海岸線は至って険しい地形が連続し、人の住むところではない。鉄道と国道は内陸の山々を長いトンネルで貫通している。
なぜ、礼文という駅名になったのだろう。礼文華(れぶんげ)という美麗な地名があるのに。駅を通り過ぎ細道に逸れてからしばらく進むと、礼文華山トンネルを出た室蘭本線が一直線に走ってくる地点に到着する。ここから先は、本当に深い山奥なのだ。わずかながらも熊の恐怖を感じつつ、車の鍵を開け放しにして、線路脇でカメラを構える。やはり非電化の線路はすっきりとしていて美しい。北海道の6月は、眩しいばかりの鮮やかな緑に彩られている。そこに、青い流星がぱーっと一筋。先ほどのように趣向を凝らしたカーブも良いが、ストレートこそ列車の魅力を「ストレートに」伝えてくれるものだ。
写真
1枚目:はまなす(@白老~社台)
2枚目:トワイライトエクスプレス(@大岸~豊浦)
3枚目:北斗星(@小幌~礼文)
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