冬を歩こう。
・古川市場
十和田北線のバスまでは時間があったので、駅から歩いて5分ほどのところにある古川市場を訪れる。
ここの存在を知ったのは2年前、あけぼのと日本海を撮るために青森までやって来たものの、豪雪のために奥羽本線も東北本線も海峡線も全く動いていなかったのだった。その時、仕方なく青森市街をぶらついていて見つけたのがここである。
100円券が10綴りの1000円券を買い、まずは1枚使って白米をよそってもらう。あとは色々な店を回りながら、券を使ってこの上に好きなネタをどんどん載せていく。同じ大トロでも100円で売っている店もあれば、200円のところもある。しかしホタテについては前者が後者よりも高かったりと、店によって価格設定はさまざまである。今回は我ながら上手く立ち回ることができ、なかなか美味しそうなのっけ丼が出来上がった。新鮮な魚介を自分好みで盛っていくのは楽しい。イクラは弾力があり、東京で食べるものとはまるで異なる。また、青森の郷土料理というニシンの切り込み、これはかなり気に入った。時刻は10時45分、贅沢なブランチである。
・酸ヶ湯温泉
せっかく青森に来たので、こういう時でないと行かないような場所を訪れたい。そこで、酸ヶ湯温泉である。八甲田の山中に佇む秘湯で、有名な混浴の千人風呂があるという。11時25分に駅前を出る十和田湖駅行のJRバスみずうみ号に乗り、山奥へと向かう。夜行明けの疲労と、腸管血流の亢進も相まって、新青森駅に着くか着かないかというところで眠りに落ちてしまった。
目を覚ますと、バスは壮観な景色の中を走っていた。道路の両側は車高ほどもあろうかという雪の壁に区画され、周囲は見渡す限りの樹氷の森である。晴れ間から降り注ぐ白昼の陽光が雪に照り返し、まさしく眩いばかりの銀世界だ。そういえば週明けのニュースで報道されていたが、ついこの間、北東北には強烈な寒波が押し寄せてどっさり雪が積もったようだ。これから訪れる酸ヶ湯も3メートルを超える豪雪だったらしい。それでもバスの走る道はきれいに除雪されているから大したものである。ここは青森から十和田へと抜ける基幹道路なのだ。車内放送では名所案内が流れる。八甲田の悲しい物語として、雪中行軍の遭難事故が紹介されていた。映画のセリフ「天は我々を見放した」は当時の流行語になったという。
ロープウェー駅前で小休止の後、13時過ぎに目的地に到着した。バスはこの後も走り続け、始発から4時間以上をかけて十和田湖駅まで向かうようだ。酸ヶ湯温泉の大きな建屋は深い雪の中に佇んでいた。ちらちらと粉雪が舞い、雰囲気十分である。貸しタオルと休憩所、そして2つの風呂の両方がセットになった1000円の日帰り入浴券を購入し、まずは玉乃湯という小ぢんまりした風呂に入って体を洗う。湯は白濁している。pHはかなり低いようで、レモン水のような味がした。目に入ると沁みて痛い。そして帰りのバスまではたっぷり時間があるので、2階の休憩所でぐだぐだと寝転びながら昼下がりのまどろみを楽しむ。窓に映る極寒の雪景色をぼんやりと眺めながら、暖房の効いた室内でくつろいだ。
二度目の入浴は、ヒバ千人風呂である。体育館を思わせる広い建屋に、巨大な湯船が二つ。片方は熱の湯というが、名前とは裏腹に湯はぬるい。もう片方は四分六分の湯といい、こちらは浸かりごたえのある温度であった。調べたところによればそれぞれ源泉が異なっているらしい。充満する湯気にヒバの香りが溶け込み、肺胞を満たしていく。白く酸い湯に浸かって、霞む天井を見上げながら、非日常の湯船から日常に思いを馳せる。ところでこの風呂は混浴ということになってはいるが、見たところ男しか入っていなかったw 近年のマナー低下により、浴槽のへりには男女を隔てる境界標識が設置されている。
夕暮れ迫る頃、十和田湖駅からはるばるやって来たバスに乗って青森市街へと戻る。蒼白の闇に包まれていく山道をぼんやりと眺めながら、再び眠りに落ちていった。
・青森の宵
事前に目をつけておいた「ふく郎」という居酒屋に入る。予約は要らないだろうと高をくくっていたが、すでにテーブルが一卓しか空いておらず、入れたのは幸運であった。料理、とくにニシンやヒラメ、白子の天ぷらなどが実に美味しく、日本酒によく合う。とりとめのない話をしながらいつの間にか酒が進み、たくさん飲み食いしてしまったが、会計も良心的であった。アクセスも良いので、青森を訪れるときは是非また来てみたい。
その後ラーメンでも食べようかということになったが、営業している店が予想外に見つからず、結局東横インの裏手にある小さな居酒屋に入った。見知らぬ人と話が盛り上がり、青森の夜が更けてゆく。
写真
1枚目:のっけ丼
2枚目:酸ヶ湯温泉
3枚目:重ね盃
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古川市場
青森駅1125 → 酸ヶ湯温泉1310
JRバス東北 十和田北線 みずうみ700号 青森230い8823
酸ヶ湯温泉
酸ヶ湯温泉1632 → 青森駅1814
JRバス東北 十和田北線 みずうみ701号 青森230き8823
青森泊
・古川市場
十和田北線のバスまでは時間があったので、駅から歩いて5分ほどのところにある古川市場を訪れる。
ここの存在を知ったのは2年前、あけぼのと日本海を撮るために青森までやって来たものの、豪雪のために奥羽本線も東北本線も海峡線も全く動いていなかったのだった。その時、仕方なく青森市街をぶらついていて見つけたのがここである。
100円券が10綴りの1000円券を買い、まずは1枚使って白米をよそってもらう。あとは色々な店を回りながら、券を使ってこの上に好きなネタをどんどん載せていく。同じ大トロでも100円で売っている店もあれば、200円のところもある。しかしホタテについては前者が後者よりも高かったりと、店によって価格設定はさまざまである。今回は我ながら上手く立ち回ることができ、なかなか美味しそうなのっけ丼が出来上がった。新鮮な魚介を自分好みで盛っていくのは楽しい。イクラは弾力があり、東京で食べるものとはまるで異なる。また、青森の郷土料理というニシンの切り込み、これはかなり気に入った。時刻は10時45分、贅沢なブランチである。
・酸ヶ湯温泉
せっかく青森に来たので、こういう時でないと行かないような場所を訪れたい。そこで、酸ヶ湯温泉である。八甲田の山中に佇む秘湯で、有名な混浴の千人風呂があるという。11時25分に駅前を出る十和田湖駅行のJRバスみずうみ号に乗り、山奥へと向かう。夜行明けの疲労と、腸管血流の亢進も相まって、新青森駅に着くか着かないかというところで眠りに落ちてしまった。
目を覚ますと、バスは壮観な景色の中を走っていた。道路の両側は車高ほどもあろうかという雪の壁に区画され、周囲は見渡す限りの樹氷の森である。晴れ間から降り注ぐ白昼の陽光が雪に照り返し、まさしく眩いばかりの銀世界だ。そういえば週明けのニュースで報道されていたが、ついこの間、北東北には強烈な寒波が押し寄せてどっさり雪が積もったようだ。これから訪れる酸ヶ湯も3メートルを超える豪雪だったらしい。それでもバスの走る道はきれいに除雪されているから大したものである。ここは青森から十和田へと抜ける基幹道路なのだ。車内放送では名所案内が流れる。八甲田の悲しい物語として、雪中行軍の遭難事故が紹介されていた。映画のセリフ「天は我々を見放した」は当時の流行語になったという。
ロープウェー駅前で小休止の後、13時過ぎに目的地に到着した。バスはこの後も走り続け、始発から4時間以上をかけて十和田湖駅まで向かうようだ。酸ヶ湯温泉の大きな建屋は深い雪の中に佇んでいた。ちらちらと粉雪が舞い、雰囲気十分である。貸しタオルと休憩所、そして2つの風呂の両方がセットになった1000円の日帰り入浴券を購入し、まずは玉乃湯という小ぢんまりした風呂に入って体を洗う。湯は白濁している。pHはかなり低いようで、レモン水のような味がした。目に入ると沁みて痛い。そして帰りのバスまではたっぷり時間があるので、2階の休憩所でぐだぐだと寝転びながら昼下がりのまどろみを楽しむ。窓に映る極寒の雪景色をぼんやりと眺めながら、暖房の効いた室内でくつろいだ。
二度目の入浴は、ヒバ千人風呂である。体育館を思わせる広い建屋に、巨大な湯船が二つ。片方は熱の湯というが、名前とは裏腹に湯はぬるい。もう片方は四分六分の湯といい、こちらは浸かりごたえのある温度であった。調べたところによればそれぞれ源泉が異なっているらしい。充満する湯気にヒバの香りが溶け込み、肺胞を満たしていく。白く酸い湯に浸かって、霞む天井を見上げながら、非日常の湯船から日常に思いを馳せる。ところでこの風呂は混浴ということになってはいるが、見たところ男しか入っていなかったw 近年のマナー低下により、浴槽のへりには男女を隔てる境界標識が設置されている。
夕暮れ迫る頃、十和田湖駅からはるばるやって来たバスに乗って青森市街へと戻る。蒼白の闇に包まれていく山道をぼんやりと眺めながら、再び眠りに落ちていった。
・青森の宵
事前に目をつけておいた「ふく郎」という居酒屋に入る。予約は要らないだろうと高をくくっていたが、すでにテーブルが一卓しか空いておらず、入れたのは幸運であった。料理、とくにニシンやヒラメ、白子の天ぷらなどが実に美味しく、日本酒によく合う。とりとめのない話をしながらいつの間にか酒が進み、たくさん飲み食いしてしまったが、会計も良心的であった。アクセスも良いので、青森を訪れるときは是非また来てみたい。
その後ラーメンでも食べようかということになったが、営業している店が予想外に見つからず、結局東横インの裏手にある小さな居酒屋に入った。見知らぬ人と話が盛り上がり、青森の夜が更けてゆく。
写真
1枚目:のっけ丼
2枚目:酸ヶ湯温泉
3枚目:重ね盃
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