英国滞在 6日目
英国滞在 6日目
英国滞在 6日目
白亜の断崖を歩く。
8/20
High Street Kensington → Victoria
Circle Line

London Victoria 947 → Lewes 1052
Southern Service

Lewes 1058 → Seaford 1114
Southern Service

Seaford Station 1122(+6) → Seven Sisters, Park Centre 1131(+3)
Brighton & Hove Bus 12系統

セブン・シスターズ(Seven Sisters)観光

Golden Gallion 1635(+11) → Seaford Station 1654(+9)
Brighton & Hove Bus 12系統

Seaford 1658 → Lewes 1714
Southern Service

Lewes 1719 → London Victoria 1829
Southern Service

Victoria → High Street Kensington
Circle Line

南イングランドの海岸へ
昨日と同じく、一人旅はヴィクトリアから始まる。渡英してからというもの、毎日BBC Weatherを確認していたが、ついに今日に決めた。イングランドの南海岸にあるセブン・シスターズという景勝地へ足を運ぶ。紺碧の海にそそり立つ白亜の断崖。今日は雲一つない快晴だというから、さぞかし美しい景色が待っていることだろう。乗ったのはガトウィック(Gatwick)空港を経由してブライトン(Brighton)方面へ向かう列車で、途中のルイス(Lewes)という駅で下車する。デルタ形のプラットホームが印象的な駅で、ここでシーフォード(Seaford)行の支線に乗り換えた。ほどなくして列車は海岸線近くに出る。南の海には真夏の太陽光が燦々と降り注ぎ、眩しい景色である。

シーフォードは小さな無人駅である。下調べの通り、駅を出たところの幹線道路A259を対岸に渡り、左の方に少し進むとバス停がある。やがて2階建ての路線バスがやって来た。パークセンターまでの往復切符を車内で買う。見晴らしが良さそうなので2階席に移動。しばらくは住宅地の中を走るが、突如として町並みが途切れたかと思うと、眼前にはカックミア(Cuckmere)川が削ったなだらかな谷が現れる。車窓右手の景色も突然開けて、少し遠くを見ればセブン・シスターズと思しき断崖が連なっている。バスはこの谷を一直線に下っていき、海抜と同じレベルで川を渡る。そこから少し走れば、セブン・シスターズ散策の起点となるパークセンターに到着となる。

崖を歩く
この辺り一帯には遊歩道が整備されていて、A259から海岸までの間はのどかな牧草地が広がっている。セブン・シスターズといえども見どころは有名な断崖だけではなく、くねくねと蛇行するカックミア川に沿って歩きながら、色々な景色を楽しむことができる。断崖は河口の東側に連なっている。西側から崖の全貌を眺めるならば夕方の方が光線状態が良いだろうと考え、まずは川の東側に整備されているSouth Downs Wayという道を歩いていくことにした。空の色を映しているのか、川は深い紺碧色で、その対岸ではヒツジの群れがのんびりと草を食んでいる。遠くには丘の稜線が独特の曲線美を描いており、ところどころで干し草のロールがころころ転がっているのが面白い。

遊歩道はなかなか賑わっており、みな思い思いに散策を楽しんでいる。とくにイヌを連れている人が多い。川で水浴びもできれば、広大な自然の中を走り回ることもできる。イヌにとっては至福の散歩だろう。そばには舗装されたコンクリートの小径も並走していて、レンタサイクルで颯爽と駆け抜ける人もいる。ところで、何もセブン・シスターズに限らず、イギリスは少し田舎へ行けばどこでもフットパスが整備されている。そこには必ずしもここのような強烈なスペクタクルがあるわけではないが、純粋に散策を楽しむ、そして景色を、雰囲気を楽しむという、田舎に根ざした素朴な精神とでも呼べば良いのか、イギリス人の原風景や国民性を垣間見るような気がするのである。

徐々に道は上り坂になり、川から離れてぐいぐいと丘を登っていく。水平線も見えてきた。海峡の海は白昼の陽光に煌めいている。パークセンターを出発してから2.5kmほどは歩いただろうか、坂を登りつめた先には絶景が広がっていた。眼下にはカックミア川が白い砂浜を広げながら海へ注いでいる。河口の西側も切り立った崖になっていて、何の前触れもなく突然、陸地の曲面美がそこで断絶しているかのようだ。手前はなだらかな丘陵で、ここをこのまま下って行けば砂浜まで出られそうである。

さらに海の方へと歩いていく。ふいに、目と鼻の先で地面がなくなる。柵もなければ、注意書きも何もない。今まで確かに足を踏みしめながら歩いてきた陸地が、2、3歩進んだ辺りでなくなっている。そう、今まさに自分は、セブン・シスターズの断崖の縁に立っているのだ。左足を崖っぷちに添えて、おそるおそる下を覗き込む。目の眩むような高さ。はるか眼下には、狭隘な浜辺に波が押し寄せる。そして、絶望的なまでの白い崖。チョークでできたこの崖の純白さは、美しさという感覚を通り越して、救いようのない悲愴感や寂寥感までをも連れてくる。カックミア川が優しく蛇行する内陸の風景は一変し、ゆるやかに連続してきた丘陵の地形は突然、ここで無慈悲にもすっぱりと切断される。連続性が絶たれ、微分可能性も否定されて、代わりに目の前には、どこまでも広大な海が深い青色を湛えて静かに横たわるのみである。

断崖は面白い。あらゆる文脈が、問答無用で断絶する。ここは、生と死の境目だ。今立っている場所から一歩踏み出せば、死ぬこともできる。予めことわっておくと、別に自分は何かの精神疾患を抱えているとか、希死念慮があるとか、そういう人ではないけれども、いざこのような場所に立ってみると、足を一歩進めるか否か、たったそれだけのことで生死が分かれるという尋常ならぬ状況に背筋が凍えるとともに、死と隣り合わせになるという異常な感覚に神経系が麻痺してしまうのだ。青い海、青い空、白い崖を眺めながら、しばらくは思索に耽る。

崖を見る
その後、遊歩道を歩きながら東側の崖を歩いていく。彼方まで段々になって崖が連なる様子は壮観。それにしても、高さ150mのこんな崖っぷちまで開放されているとは、日本ではあり得ない話である。全ては自己責任、という考え方なのだろう。いつの間にか13時を回っていたので、引き返すことにする。来たときとは別の道を戻り、浜辺まで下りてきた。ここはBeach Trailと名の付いた遊歩道で、小ぢんまりした砂浜には海水浴客がいる。波打ち際から見上げるセブン・シスターズの断崖もすばらしい眺めで、青空に突き刺さるような白亜の崖は神秘的ですらある。

浜に沿って西の方へ歩いていくと、カックミア川の河口に行き当たる。対岸まではほんの15mくらいの距離だが、橋がかかっていないので残念ながら渡ることはできない。見たところ、水深は大腿の高さで、流れはそれなりに早い。靴、靴下、ズボンを脱ぎ、それらを抱えて渡ることはあながち不可能でもなさそうだったが、さすがにカメラや貴重品を持っているので危険すぎると判断し、川沿いに内陸まで戻ることにした。"Traditional Viewpoint"と称されるセブン・シスターズの眺望地点は河口西側の崖上にある。そこへ行くために2.5kmも内陸へ引き返し、A259の橋で対岸に渡ってから再び同じ距離を歩いてくるのも実に非効率だが、仕方ない。修行だと思ってひたすら歩き続ける。

40分ほどを要しただろうか。ようやく、西側の丘にやってきた。手前にはCoastguardの家、そして背景にはセブン・シスターズの白い崖が見える。これだけでも十分美しい光景、絵になる光景だが、7連の崖が最も美しく見える場所を探してさらに西側へと歩みを進めていく。ここも断崖になっているがそれほどの高さはない。磯へ下りる階段があったのでこれをつたって海抜レベルに降り立つ。ちょうど干潮の時間で、そこら中の岩には海藻がびっしりとこびりついている。波打ち際までおそるおそる歩いていくと、やっと目当ての構図にたどりついた。海面から忽然と浮かび上がる、7人の修道女である。

家路
パークセンターのバス停に着いてから4時間あまり、A259と海岸線を2往復したから、ざっと10kmは歩いただろう。予報通り天候は快晴で、満足のいく撮影もできた。帰りはゴールデン・ガリオン(Golden Gallion)のバス停から駅へ戻る。バスは全くダイヤ通りに来ず、列車との接続がぎりぎりであった。

今日はずいぶんと日に焼けた。ゆっくり休むとしよう。

写真
1枚目:崖に立つ
2枚目:断崖絶壁
3枚目:セブン・シスターズ

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