越後の国。
・朝の間島集落
村上を出ると、車窓は急に寂しくなる。三面川を渡ると下り線は海側へ大きくカーブして、寒々しい日本海が眼前に現れる。まだ夜の明けきらない間島駅に降り立ち、ひっそりとした集落を抜けて国道へ出る。静かな朝である。目指す撮影地は、村上側のトンネルのポータル上と、教科書的定番として知られる日本海バックの下り線ストレートである。とくに、定番のストレートは、沿岸を走る下り線と、山をトンネルで貫く上り線が分離した場所で、あたかも単線区間のような風情である。ひと通りのロケハンを終えて、まずはポータル上で特急いなほと普通列車を撮影。望遠レンズを覗けばはるか遠方にも線路が見える。眼下には間島の集落が広がり、春を待つ日本海が薄曇りの朝日に照らされている。さて、T編成を決めて一安心していたが、何と輸送情報によれば4060レも4061レも遅延しているという。これでは定番構図は諦めざるを得ない。つくづくEF81に恵まれない撮影行だ。一方でEF510牽引の2093レや4075レは普通に定刻運転をしていて、何とも悔しい。
集落では、しばしば老人とすれ違う。かなり高齢化した場所と見え、若い人は住んでいるのだろうかと思う。国道を挟んだ海沿いには、すでに無人となった廃屋の群れがひっそりと佇む。十年後、二十年後、こういった集落はどうなっているのだろうか。各地に廃村がたくさんできても不思議ではない。日本は狭い国土ではあるが、しかし広い。まだ訪れていない場所は山ほどある。何とか時間のあるうちに、各地を歩き、五感でその風土をとらえたいという思いが大きい。鉄道で移動し、車窓を眺め、乗客と時空間を共有し、駅から歩く。それだけで、数々の異質な日常に浸ることができるのだ。
・磐越西線へ
村上で遅れ4061レをとらえられるかと思いきや、結局やって来なかった。新潟へ向かういなほの中ではうつらうつらしてしまったが、どうやら白新線内ですれ違ったようだ。いなほは数分の遅れで走っていたが長岡行の普通列車に何とか接続してもらい、新津にて磐越西線に乗り換える。午後は、三川の近くでキハ40系列を狙う。
晴れていたはずの空が急に表情を変え、みるみるうちに猛烈な暴風雨となった。阿賀野川の橋梁を正面から迎え撃つ撮影地はかなり過酷な環境。線路をまたぐ国道の交通量もかなり多く、大型トラックが泥水のしぶきを上げながらそばを通過していく。しかし、せっかく築堤に積もった雪を踏み固めて足場を作ったのだから、ずぶ濡れになりながらも列車を撮る。残念ながら、引き付けてとらえた何枚かはヘッドライトがレンズの水滴に反射してしまい、気味の悪い光の影が写り込んでしまった。レンズフードを準備しておくべきであった。ここまで劣悪な撮影はなかなかないだろう。その次の下り列車のときはいくぶん天候も穏やかになり、アウトカーブを軽く俯瞰する構図で3両を画面におさめられた。
その後、阿賀野川を渡って五十島方面に足を進める。結構歩いただろうか。線路がトンネルに吸い込まれる前に跨線橋があり、三本目の列車はここで撮影。会津若松方にはタラコ色のキハ47が連結されていた。最後の列車は阿賀野川を渡る橋梁をサイドからとらえる。画面の左上に送電線が入ってしまうのが最大の難点だが、トラス橋を渡るキハ40系列はやはり絵になる。赤いJR色とタラコ色の組み合わせで、単調な色調の世界に絶妙なアクセントが入ったように思う。列車の間隔が長い分、構図を熟考して一枚一枚に力を入れられる撮影となった。
駅前の酒屋で「はでっぱの香」という麒麟山の地元限定酒を手に入れて、三川を去る。
・帰途
長いようで、あっという間の撮影行であった。魅力的な被写体が減っていく中、各地に残る国鉄型の残党を追いかけてきた形になる。上越新幹線の中で撮影メモをまとめ、くたびれた体で重い荷物を背負い、上野駅新幹線ホームから長い階段を上がると、旅の始まりの場所、地下ホームに再び戻ってきた。次にここから旅立つのはいつになるだろうか。
写真
1枚目:朝の日本海を横目に駆け抜ける(@村上~間島)
2枚目:暴風雨の阿賀野川を渡る(@三川~五十島)
3枚目:トラス橋に添えられた彩り(@三川~五十島)
2857文字
3/6
村上556 → 間島604
羽越本線821D キハ47 1130
撮影(トンネル上):
2002M[656] 特急いなほ2号(T14編成)
2093レ[658] EF510
823D[729] 普通列車(キハ40 3連)
撮影(上下線分離地点):
2004M[758] 特急いなほ4号(R編成)
撮影(間島駅):
2001M[922] 特急いなほ1号(T14編成)
4075レ[929] EF510-20
間島931 → 村上942
羽越本線822D キハ47 516
村上1021(+7) → 新潟1105(+4)
羽越本線・白新線2006M 特急いなほ6号 モハ484 1061
新潟1109(+4) → 新津1128(+2)
信越本線436M モハ114 105
新津1138 → 三川1221
磐越西線232D キハ110-203
撮影(跨線橋①)
2232D[1439] 普通列車(キハ40 3連)
2235D[1505] 普通列車(キハ40 3連)
撮影(跨線橋②)
233D[1621] 普通列車(キハ40 2連)
撮影(阿賀野川橋梁)
236D[1657] 普通列車(キハ40 2連)
三川1822 → 新津1911
磐越西線235D キハ110-216
新津1915 → 新潟1929
信越本線3375M 快速くびき野5号 モハ485 1045
新潟2019 → 上野2222
上越新幹線1350C Maxとき350号 E458-2
・朝の間島集落
村上を出ると、車窓は急に寂しくなる。三面川を渡ると下り線は海側へ大きくカーブして、寒々しい日本海が眼前に現れる。まだ夜の明けきらない間島駅に降り立ち、ひっそりとした集落を抜けて国道へ出る。静かな朝である。目指す撮影地は、村上側のトンネルのポータル上と、教科書的定番として知られる日本海バックの下り線ストレートである。とくに、定番のストレートは、沿岸を走る下り線と、山をトンネルで貫く上り線が分離した場所で、あたかも単線区間のような風情である。ひと通りのロケハンを終えて、まずはポータル上で特急いなほと普通列車を撮影。望遠レンズを覗けばはるか遠方にも線路が見える。眼下には間島の集落が広がり、春を待つ日本海が薄曇りの朝日に照らされている。さて、T編成を決めて一安心していたが、何と輸送情報によれば4060レも4061レも遅延しているという。これでは定番構図は諦めざるを得ない。つくづくEF81に恵まれない撮影行だ。一方でEF510牽引の2093レや4075レは普通に定刻運転をしていて、何とも悔しい。
集落では、しばしば老人とすれ違う。かなり高齢化した場所と見え、若い人は住んでいるのだろうかと思う。国道を挟んだ海沿いには、すでに無人となった廃屋の群れがひっそりと佇む。十年後、二十年後、こういった集落はどうなっているのだろうか。各地に廃村がたくさんできても不思議ではない。日本は狭い国土ではあるが、しかし広い。まだ訪れていない場所は山ほどある。何とか時間のあるうちに、各地を歩き、五感でその風土をとらえたいという思いが大きい。鉄道で移動し、車窓を眺め、乗客と時空間を共有し、駅から歩く。それだけで、数々の異質な日常に浸ることができるのだ。
・磐越西線へ
村上で遅れ4061レをとらえられるかと思いきや、結局やって来なかった。新潟へ向かういなほの中ではうつらうつらしてしまったが、どうやら白新線内ですれ違ったようだ。いなほは数分の遅れで走っていたが長岡行の普通列車に何とか接続してもらい、新津にて磐越西線に乗り換える。午後は、三川の近くでキハ40系列を狙う。
晴れていたはずの空が急に表情を変え、みるみるうちに猛烈な暴風雨となった。阿賀野川の橋梁を正面から迎え撃つ撮影地はかなり過酷な環境。線路をまたぐ国道の交通量もかなり多く、大型トラックが泥水のしぶきを上げながらそばを通過していく。しかし、せっかく築堤に積もった雪を踏み固めて足場を作ったのだから、ずぶ濡れになりながらも列車を撮る。残念ながら、引き付けてとらえた何枚かはヘッドライトがレンズの水滴に反射してしまい、気味の悪い光の影が写り込んでしまった。レンズフードを準備しておくべきであった。ここまで劣悪な撮影はなかなかないだろう。その次の下り列車のときはいくぶん天候も穏やかになり、アウトカーブを軽く俯瞰する構図で3両を画面におさめられた。
その後、阿賀野川を渡って五十島方面に足を進める。結構歩いただろうか。線路がトンネルに吸い込まれる前に跨線橋があり、三本目の列車はここで撮影。会津若松方にはタラコ色のキハ47が連結されていた。最後の列車は阿賀野川を渡る橋梁をサイドからとらえる。画面の左上に送電線が入ってしまうのが最大の難点だが、トラス橋を渡るキハ40系列はやはり絵になる。赤いJR色とタラコ色の組み合わせで、単調な色調の世界に絶妙なアクセントが入ったように思う。列車の間隔が長い分、構図を熟考して一枚一枚に力を入れられる撮影となった。
駅前の酒屋で「はでっぱの香」という麒麟山の地元限定酒を手に入れて、三川を去る。
・帰途
長いようで、あっという間の撮影行であった。魅力的な被写体が減っていく中、各地に残る国鉄型の残党を追いかけてきた形になる。上越新幹線の中で撮影メモをまとめ、くたびれた体で重い荷物を背負い、上野駅新幹線ホームから長い階段を上がると、旅の始まりの場所、地下ホームに再び戻ってきた。次にここから旅立つのはいつになるだろうか。
写真
1枚目:朝の日本海を横目に駆け抜ける(@村上~間島)
2枚目:暴風雨の阿賀野川を渡る(@三川~五十島)
3枚目:トラス橋に添えられた彩り(@三川~五十島)
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