フランス旅行 9日目
フランス旅行 9日目
フランス旅行 9日目
パリ滞在最終日。
3/18
オルセー(Orsay)美術館観覧

3/18 → 3/19
パリ・シャルル=ド=ゴール(CDG)1930(GMT+1)
→ 東京・成田(NRT)1455(-30, GMT+9)

全日本空輸206便(NH206)

オルセー美術館
長いようであっという間だった旅行もいよいよ今日が最終日。飛行機は夜なので、昼過ぎまではゆったりと過ごせる。昨日はルーヴルを訪れたので、今日はオルセーを観ることにする。ピラミッド通りからチュイルリー庭園を横切り、ロワイヤル(Royale)橋を渡ってセーヌ左岸へ。橋のたもとから下流を見渡せば、すぐそこがオルセー美術館である。河を挟んだルーヴルの斜向かいということで、両館は互いにかなり近い。

この美術館の建物はかつてはオルレアン(Orleans)鉄道の起点オルセー駅であり、大改修を経て現在の美術館の姿になった。建築当時の骨組みはそのまま残され、五階分の高さがある丸い天井からやわらかな太陽光が差し込む様子は、まさにここが鉄道のターミナル駅であったことを思わせる。何より、上階の展示室の両脇にある大時計、そして吹抜の妻面を飾る時計が流麗である。上階の大時計は文字盤がガラス張りになっていて、室内から数字と針越しに右岸の景色を見渡すことができる。今日は陰鬱な曇天であるのが残念だが、遠くにはモンマルトルの丘とサクレ・クール寺院も見える。

入口は昨日のルーヴルとは異なって長蛇の列。30分以上待ってようやくチケットを買うことができたが、行列の元凶は二つしか入口のないセキュリティ・チェックであった。昼過ぎにかけて混んでくると思われたので、まずは上階の印象派の展示から見て回る。マネ(Manet)、モネ(Monet)、ルノワール(Renoir)といった巨匠の作品群がどっと押し寄せてくる。それこそ、どこかで何度も目にしたことのあるような絵の実物が、これでもか、というくらいに所狭しと並んでいる。この展示室は昨年に改装したらしく、深い青色の壁が柔和で明るい印象派の絵画群を絶妙に引き立てていて美しい。

モネの絵はおしなべて柔らかいタッチで、撮像素子や網膜に焼き付いたままの一時的な像というよりは、視覚野を経て再構成された脳内での二次的な光線イメージに近いものがある。印象(広辞苑によると、美術用語では対象が人間の精神に与えるすべての効果)、とは実にうまく呼んだもので、人間の脳は必ずしも実物を写実的にとらえているわけではなく、一次的な視覚情報の再構成の産物として印象が形成されているという部分とある程度関わっているように思われる。したがって印象派の絵は、それまでの写実主義とはまた別の次元で「分かりやすい」。扱うテーマにしても、宗教画や肖像画などは背景なり歴史なりの知識や、描かれた題材から寓喩を読み取るなどの能動的作用なくしては、どうしても表面的で感覚的な理解に留まるけれども、印象派の絵に描かれるモチーフに対してはそういった知識も作用もほとんど必要なく、そのままの形で作品を楽に鑑賞できる。この点においてもまた「分かりやすい」。印象派がとくに日本人に人気で、オルセーがルーヴルを凌ぐほどだというのは、こうした部分も大きいのではないか。もっとも、芸術など所詮は主観なのだから、表面的・感覚的で大いに結構だし、単に鑑賞する分にはそれで十分だとも思う。そこから先の知識や学識は、教養の範疇あるいは学問の領域として学びたい人だけが別個に学べば良い。

ルノワールは人物画に長け、これまた有名な絵が次々に登場してくる。現在のモンマルトル美術館の庭が舞台だと説明されていた『ブランコ』の絵もここにあり。後期印象派と呼ばれるセザンヌ(Cézanne)は独特の画風で、線や造形そして色の強さが窺える。いずれの展示も直観で理解できる内容が多く、古色蒼然としたルーヴルに比べるとだいぶ明るく、良い意味で軽く、気楽に見て回れるのが面白い。

上階の残りのスペースではフィンランドの画家ガレン=カレラ(Gallen-Kallela)の特別展が開かれていた。軽く見て回った後、中階に降りる。ここは彫刻がメインだが、脇にある狭い展示室にはゴッホ(Gogh)やゴーギャン(Gauguin)といった後期印象派の絵が並ぶ。上階の印象派とはずいぶん趣が異なり、20世紀美術という新時代の到来を予感させる内容でもある。地上階には印象派に加え、古典派、ロマン派、象徴派などの作品群が中央通路脇に設けられた展示室に並ぶ。全てを回るのは大変なので、ここは昨日同様、ミレー(Millet)の『晩鐘』、アングル(Ingres)の『泉』、マネの『オランピア』などといった有名どころを押さえていく。地上階の最奥部にはオペラ座ならびにその界隈の建築模型が置かれ、これもなかなか壮観であった。気が付けばもう14時半になっていたので、ピラミッド通りにあるLa Rotonde des Tuileriesというカフェでハムとチーズのクレープ・サレ(crêpe salée)を食べて宿へ戻る。

帰国の途
16時に呼んでおいたタクシーで空港へ向かう。今日は日曜日とあってパリ市内で渋滞に巻き込まれ、結局1時間以上を要する。チェックイン、パスポート・コントロールを済ませて免税店で土産を買った後、38番ゲートという僻地のようなところへ向かって手荷物検査を受ける。ゲート付近は殺伐としていてほとんど何もない。早々にここまで来てしまい、ラウンジに入り損ねるという失策。出発時刻は19時半。ゲートで待っている間に既に陽は落ち、辺りには急速に夜の帳が下りてゆく。機窓から眺める黄昏の景色は美しくも切ない。やがて空港は宵闇に包まれ、漆黒の滑走路に散りばめられた標識灯の数々をぼうっと眺めていると、あっという間に機体は宙に浮いて眼下にはつかの間の夜景が広がった。さらば、パリ。

夕食の後、映画を観てから眠りにつく。「千代寿」という山形の日本酒が美味しかった。かなり長い時間寝てしまったようで、目が覚めると着陸まであと3時間半。日本時間はまもなく正午というところ。昼食としてプレートを注文し、食後にうとうとしていたらあっという間に着陸である。地球の自転と同じ方向に飛ぶ方が不思議と時間も短く感じられるものだ。

写真
1枚目:大時計
2枚目:広大なドーム
3枚目:セーヌ左岸に佇む

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