フランス旅行 5日目
2012年3月14日 鉄道と旅行
カルチェ・ラタンを歩く。
・セーヌ左岸へ
昨日、一昨日とアルザスへ行っていたため今日は遅めのスタート。10時頃にのんびりと宿を出て、左岸のカルチェ・ラタンを中心に散策しよう。メトロを降り、サン・ミシェル(St. Michel)大通りを南下。左手には逆光のソルボンヌ(Sorbonne)教会、そしてもう少し下ればパンテオン(Panthéon)が見える。右手に広がるのはリュクサンブール公園。早春の日差しは柔らかくも眩しく、多くの人々が日光浴をしたり、雑談を楽しんだり、読書にふけったり、園内をジョギングしたりと、思い思いの時間を過ごしている。パリ市民の憩いの場といったところか。背後に控えるリュクサンブール宮殿は立派で、現在は上院が入っているらしい。
公園を訪れた後は、スフロ(Soufflot)通り、サン・ジャック(St. Jacques)通りを経てソルボンヌの裏側を回り、サン・ジェルマン(St. Germain)大通りに出た。交差点にあったEyrollesという書店に立ち寄る。地下にはフランス国内外の旅行書がかなり充実し、眺めているだけでも楽しめる。昼食は、大通りとラグランジュ(Lagrange)通り、モンジュ通りが交差した角地にあるCafé du Metroでフランクフルトソーセージとビールを頼む。値段のわりに結構美味しい。こうしてカフェに座り、道行く人々や交差点を往来する交通などをゆったり眺めていると、街の素の表情というのか、観光とは切り離されたところにあるパリの姿を垣間見られるように思う。
午後はモンジュ通りをモンジュ広場まで南下する。今日はここで朝市が開かれていたようで、今はその片付けの真っ最中であった。賑やかな市を一度見てみたいものである。広場からは小さなオルトラン(Ortolan)通りに入り、裏側のムフタール通りへ出る。この通りはパリの胃袋と呼ばれ、朝夕には細い石畳道の両脇にぎっしりと店が立ち並び、市が開かれるようだ。ポ・ド・フェール(Pot de Fer)通りとの交差点付近はとくに活気があり、廉価ながら美味しそうなカフェやブラッセリーが軒を連ねている。この辺りはカルチェ・ラタンの一角にある庶民的な街区で、この他にもクレープ屋やチーズ屋などが立ち並び、通りを北上したところにあるコントルスカルプ(Contrescarpe)広場のカフェには多くの人が集っている。平日の午後だが、みな暇なのだろう。日差しも暖かいし天気も良いので外に繰り出してひと息、といったところか。この界隈は大昔はパリの掃き溜めのような場所だったようで、衛生環境も最悪だったと聞く。かつてここに住んだことのある小説家ヘミングウェイもその様子を酷評しているようだ。
・カルチェ・ラタン
ムフタール通りに続くデカルト(Descartes)通りを歩き、サンテチエンヌ・デュ・モン(St. Étienne du Mont)教会の脇から、午前中横目に見たパンテオンの裏手に出る。この周辺にはアンリ4世(Henri Ⅳ)高等学校、パリ大学法学部、ソルボンヌなどが集中し、時刻はちょうど15時頃、授業が終わったと見えて多くの学生が広場に集まっている。フランス人はふにゃふにゃと議論を重ねるのが大好きなようで、大勢が立ち話をして盛り上がったり、座り込んで難しい顔をしながら課題だかレポートだかに向き合ったり、ただ友人どうしで集まって談笑していたり、といった姿がそこら中に見受けられる。総じて感じたのは、こちらの学生はみな質素で堅実、そして勉学に真面目ということで、自分が普段目にしているところの日本の大学生とは生活のスタイルが根本的に違うように思われる。本来のあるべき姿とはこういうものなのかもしれない。それと、各々が自分の意見を持っていて、それらを自由にぶつけあっているように見えるのもまた面白い。個人的に「空気を読む」という日本語はいかにも同調的そして迎合的な感じがあって嫌いなのだが、「これを言ったらどう思われるか、場にそぐわないのではないか」などということは誰一人気にせず、かりに意見が衝突したにしても互いの考えが尊重されるという風土が感じられる。むろん、各々が自由奔放に放言することが必ずしも全体の利益になるとは限らないが、少なくとも革新的な結論や斬新な発想が得られる機会ははるかに大きくなると思うわけだ。ただ残念なことに、議論において「節度を守る」ことはすなわち「空気を読む」ことだと勘違いしている人が多い。
・クリュニー中世博物館
朝も通ったソルボンヌの先にはクリュニー中世博物館がある。ここはかつての修道院を改装して博物館とした建物で、意外とマイナーなようだが展示内容は圧巻。とくに、ガラスケースに入れられたおびただしい数の金属細工には目を見張るものがある。どれもキリスト教にまつわるものばかりだが、宗教が人を国を動かし、文化を民族を形作ってきたことを改めて実感する。どの一つ一つにも大きさのわりにただならぬ迫力が感じられ、夜に訪れたらなかなか恐ろしい雰囲気になりそうである。もう一つの目玉は『貴婦人と一角獣』と名付けられたタペストリーで、五感すなわち視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚に加え、謎の第六感を表現した六枚組の連作。赤い背景と緑の地面が補色をなして鮮やかである。15世紀末に作られたものらしいが、これほどの作品を織るには一体どれほどの手間がかかっているのだろう。第六感は「我が唯一つの望みに」と呼ばれ、愛や理解だと解釈されるらしい。
・サン・シュルピス教会
博物館を出た後は、エコール・ド・メドゥシンヌ(École de Médechine)通りに入る。この通りは両側をパリ大学医学部に挟まれていて、医学書だけを専門に扱ったVigot Maloineという大きな書店もあり非常に興味深い。信濃町の貧弱な生協に比べるとその品揃えはすさまじい。その後サン・ジェルマン大通りに出てしばらく西進し、フール(Four)通り、マビヨン(Mabillon)通りを経由してサン・シュルピス教会に至る。この教会は小説『ダ・ヴィンチ・コード』で有名になった。内部には確かに演壇を斜めに横切る真鍮製の「ローズライン」があったが、これは左手にあるオベリスクと合わせて「グノモン(gnomon)」と呼ばれる中世の天文観測器であって「ローズライン」とは呼ばないこと、またここが異教徒の教会ではなかったこと、小説の「シオン修道会」は架空のものであることなどが説明されていた。つまり聖杯伝説とは何の関係もないということらしい。あとはドラクロワの壁画『ヤコブと天使の闘い』を見てから教会を後にした。
夕食は宿近くのサン・トーギュスタン(St. Augustin)通りにある「金太郎」という定食屋に入った。去年も訪れたが、なかなか美味しい。
写真
1枚目:リュクサンブール公園
2枚目:ムフタール通り
3枚目:サン・シュルピス教会
3426文字
3/14
Pyramides → Châtelet
メトロ【7】号線
Châtelet → St. Michel
メトロ【4】号線
リュクサンブール(Luxembourg)公園
モンジュ(Monge)通り、ムフタール(Moufftard)通り
カルチェ・ラタン(Quartier Latin)、クリュニー(Cluny)中世博物館
サン・シュルピス(St. Sulpice)教会
St. Sulpice → Châtelet
メトロ【4】号線
Châtelet → Pyramides
メトロ【7】号線
パリ泊
Baudelaire Opéra
・セーヌ左岸へ
昨日、一昨日とアルザスへ行っていたため今日は遅めのスタート。10時頃にのんびりと宿を出て、左岸のカルチェ・ラタンを中心に散策しよう。メトロを降り、サン・ミシェル(St. Michel)大通りを南下。左手には逆光のソルボンヌ(Sorbonne)教会、そしてもう少し下ればパンテオン(Panthéon)が見える。右手に広がるのはリュクサンブール公園。早春の日差しは柔らかくも眩しく、多くの人々が日光浴をしたり、雑談を楽しんだり、読書にふけったり、園内をジョギングしたりと、思い思いの時間を過ごしている。パリ市民の憩いの場といったところか。背後に控えるリュクサンブール宮殿は立派で、現在は上院が入っているらしい。
公園を訪れた後は、スフロ(Soufflot)通り、サン・ジャック(St. Jacques)通りを経てソルボンヌの裏側を回り、サン・ジェルマン(St. Germain)大通りに出た。交差点にあったEyrollesという書店に立ち寄る。地下にはフランス国内外の旅行書がかなり充実し、眺めているだけでも楽しめる。昼食は、大通りとラグランジュ(Lagrange)通り、モンジュ通りが交差した角地にあるCafé du Metroでフランクフルトソーセージとビールを頼む。値段のわりに結構美味しい。こうしてカフェに座り、道行く人々や交差点を往来する交通などをゆったり眺めていると、街の素の表情というのか、観光とは切り離されたところにあるパリの姿を垣間見られるように思う。
午後はモンジュ通りをモンジュ広場まで南下する。今日はここで朝市が開かれていたようで、今はその片付けの真っ最中であった。賑やかな市を一度見てみたいものである。広場からは小さなオルトラン(Ortolan)通りに入り、裏側のムフタール通りへ出る。この通りはパリの胃袋と呼ばれ、朝夕には細い石畳道の両脇にぎっしりと店が立ち並び、市が開かれるようだ。ポ・ド・フェール(Pot de Fer)通りとの交差点付近はとくに活気があり、廉価ながら美味しそうなカフェやブラッセリーが軒を連ねている。この辺りはカルチェ・ラタンの一角にある庶民的な街区で、この他にもクレープ屋やチーズ屋などが立ち並び、通りを北上したところにあるコントルスカルプ(Contrescarpe)広場のカフェには多くの人が集っている。平日の午後だが、みな暇なのだろう。日差しも暖かいし天気も良いので外に繰り出してひと息、といったところか。この界隈は大昔はパリの掃き溜めのような場所だったようで、衛生環境も最悪だったと聞く。かつてここに住んだことのある小説家ヘミングウェイもその様子を酷評しているようだ。
・カルチェ・ラタン
ムフタール通りに続くデカルト(Descartes)通りを歩き、サンテチエンヌ・デュ・モン(St. Étienne du Mont)教会の脇から、午前中横目に見たパンテオンの裏手に出る。この周辺にはアンリ4世(Henri Ⅳ)高等学校、パリ大学法学部、ソルボンヌなどが集中し、時刻はちょうど15時頃、授業が終わったと見えて多くの学生が広場に集まっている。フランス人はふにゃふにゃと議論を重ねるのが大好きなようで、大勢が立ち話をして盛り上がったり、座り込んで難しい顔をしながら課題だかレポートだかに向き合ったり、ただ友人どうしで集まって談笑していたり、といった姿がそこら中に見受けられる。総じて感じたのは、こちらの学生はみな質素で堅実、そして勉学に真面目ということで、自分が普段目にしているところの日本の大学生とは生活のスタイルが根本的に違うように思われる。本来のあるべき姿とはこういうものなのかもしれない。それと、各々が自分の意見を持っていて、それらを自由にぶつけあっているように見えるのもまた面白い。個人的に「空気を読む」という日本語はいかにも同調的そして迎合的な感じがあって嫌いなのだが、「これを言ったらどう思われるか、場にそぐわないのではないか」などということは誰一人気にせず、かりに意見が衝突したにしても互いの考えが尊重されるという風土が感じられる。むろん、各々が自由奔放に放言することが必ずしも全体の利益になるとは限らないが、少なくとも革新的な結論や斬新な発想が得られる機会ははるかに大きくなると思うわけだ。ただ残念なことに、議論において「節度を守る」ことはすなわち「空気を読む」ことだと勘違いしている人が多い。
・クリュニー中世博物館
朝も通ったソルボンヌの先にはクリュニー中世博物館がある。ここはかつての修道院を改装して博物館とした建物で、意外とマイナーなようだが展示内容は圧巻。とくに、ガラスケースに入れられたおびただしい数の金属細工には目を見張るものがある。どれもキリスト教にまつわるものばかりだが、宗教が人を国を動かし、文化を民族を形作ってきたことを改めて実感する。どの一つ一つにも大きさのわりにただならぬ迫力が感じられ、夜に訪れたらなかなか恐ろしい雰囲気になりそうである。もう一つの目玉は『貴婦人と一角獣』と名付けられたタペストリーで、五感すなわち視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚に加え、謎の第六感を表現した六枚組の連作。赤い背景と緑の地面が補色をなして鮮やかである。15世紀末に作られたものらしいが、これほどの作品を織るには一体どれほどの手間がかかっているのだろう。第六感は「我が唯一つの望みに」と呼ばれ、愛や理解だと解釈されるらしい。
・サン・シュルピス教会
博物館を出た後は、エコール・ド・メドゥシンヌ(École de Médechine)通りに入る。この通りは両側をパリ大学医学部に挟まれていて、医学書だけを専門に扱ったVigot Maloineという大きな書店もあり非常に興味深い。信濃町の貧弱な生協に比べるとその品揃えはすさまじい。その後サン・ジェルマン大通りに出てしばらく西進し、フール(Four)通り、マビヨン(Mabillon)通りを経由してサン・シュルピス教会に至る。この教会は小説『ダ・ヴィンチ・コード』で有名になった。内部には確かに演壇を斜めに横切る真鍮製の「ローズライン」があったが、これは左手にあるオベリスクと合わせて「グノモン(gnomon)」と呼ばれる中世の天文観測器であって「ローズライン」とは呼ばないこと、またここが異教徒の教会ではなかったこと、小説の「シオン修道会」は架空のものであることなどが説明されていた。つまり聖杯伝説とは何の関係もないということらしい。あとはドラクロワの壁画『ヤコブと天使の闘い』を見てから教会を後にした。
夕食は宿近くのサン・トーギュスタン(St. Augustin)通りにある「金太郎」という定食屋に入った。去年も訪れたが、なかなか美味しい。
写真
1枚目:リュクサンブール公園
2枚目:ムフタール通り
3枚目:サン・シュルピス教会
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