フランス・イタリア旅行 5日目
2011年3月18日 鉄道と旅行
コート=ダジュールを行く。
・海岸線を見下ろす
ヴィルフランシュ=シュル=メールの朝はすがすがしい。半島の向こう側に沸き立った雲海から、朝日が姿を現す。湾内は暖かな逆光に包まれ、山腹にへばりついた石畳の町は黄色く輝き始める。今日も晴れ。この辺りは一年を通してほとんど雨が降らないのではなかろうか。
湾岸地区に向かって少し下ったところにあるバス停へ向かう。やって来たバスはかなり小さく、既に車内は結構込んでいた。なるほど、崖上の幹線道路からヴィルフランシュの港へ向かう道路はつづら折りになっているから、小回りが利く車でないと走れないようである。それでも途中で切り返す場面があった。道が狭く一方通行の場所も多々あり、町自体も独特の不規則な構造をしているため、運転は相当慣れていないと無理かもしれない。乗換のため、コル=ド=ヴィルフランシュ(Col de Villefranche)というバス停で降りる。ここは、港へ向かう道路が幹線道路から分岐する賑やかな交差点である。
下調べによれば9時6分発のバスが来るはずだったが何故か現れず、結局半時間以上待って9時24分発のバスに乗ることになった。崖上の幹線道路を行く別系統のバスでエズ村に向かう。バスはずいぶんと高い場所を走っていて、窓から見下ろす海岸線は絶景。半島に区切られた小さな入り江にはヴィルフランシュの町があり、赤い屋根の建物が階段状に港を取り囲んでいる。あの建物の合間を石畳の路地が縦横無尽に走り、しかもつい先ほどまであそこに居たのかと思うと不思議な気分。朝日に映える小さな港町は実に美しい眺めである。谷に架かった大きな陸橋を渡れば、エズに到着。
・エズ
ここは断崖絶壁にそびえ立つ城塞の村で、海抜は400mを超える。石垣に囲われた小さな町には商店や飲食店が立ち並び、ところどころ建物が切れたところには地中海が眼下に展開する。ヴィルフランシュ=シュル=メールと同じような造りの中世の町並がよく残っていて、不規則に走り交差する路地はまるで迷路のよう。色々撮り歩きながら頂上の方へ上がっていく。町並自体は美しいが、人々の生活感はあまりなく、観光化・俗化している感も否めない。そういえば観光案内所も建てられていたし、しかもそこのチップ式トイレの入り口に「有料だからお金が要る」旨が日本語で書かれていたのには驚いた。エズはヴィルフランシュ=シュル=メールとは違い、崖上を走る幹線道路にすぐ面した立地なので観光化が進んだのかもしれない。一方のヴィルフランシュは急峻な地形と複雑な道路構成が俗化を阻んでいるともいえる。
頂上の城は熱帯植物園になっていて、サボテンやリュウゼツランなどの熱帯植物が地中海を見ながら育っている。ここから見下ろす海岸線の眺めは何とも壮大で、まるで鳥になった気分である。浜辺には鉄道が東西に走り、せり出した半島をトンネルで貫いている。半島の向こう側の入り江はヴィルフランシュ=シュル=メールで、そのさらに向こう側の半島を越えるとニースに至るという地理である。海岸線から急に立ち上がる山に抱かれて町が展開し、道路が走っているのも何条か見える。海は紺碧だが、浅瀬はエメラルドグリーンに光り、正午近くのトップライトを受けて鮮やかに景色を彩っている。優しい白波が規則的に海岸に押し寄せ、灰色の砂浜を縁取っている。水平線はややおぼろげだが、晴れた夏の日などは空と海のコントラストがより一層はっきりするのかもしれない。
植物園から城塞の入り口まで戻る途中、「Le Cactus」というカフェでクレープ=サレ(crêpe salée)を食べる。軽食とはいえピザと似たようなものでなかなか食べ応えがある。日なたは暑いが日陰は涼しく、風が心地よく吹き抜ける。湿度の低い気候はさぞ暮らしやすいことだろう。
中世の町を去り、崖下の国鉄エズ駅まで向かうべくエズ=ヴィラージュ(Eze Village)のバス停からこれまた別系統のバスに乗る。運賃は1ユーロと格安。往路では乗換を行ったが、これも1ユーロの通し運賃。実はバスではなく徒歩で下る「ニーチェの小径」というルートもあったのだが、時間もかかってくたびれそうなのでバスを選んだ。バスはほぼ貸切状態で、途中で1人だけ地元住民が乗降していった。つづら折りの坂道を猛スピードで駆け降りるので、景色は相変わらず素晴らしいが、気圧変化と回転加速度が重なってなかなかつらい。
・コート=ダジュール
13時22分発の普通列車に乗り、ここからは列車を乗り継いで遥かパリを目指す。2駅でヴィルフランシュ=シュル=メール。その景色に別れを告げ、さらに2駅進むとニース。ニース近辺は完全な市街地が続き、かなりゴミゴミした様相を呈している。大がかりな施設や建物が立ち並び、便利には便利そうだが、残念ながら落ち着いた雰囲気は全く感じられない。少しすると、列車は道路を挟んで砂浜に沿うように走る。シーズンになるとこの辺りはきっと凄まじい賑わいを見せるのだろう。
乗り継ぐのはニース始発マルセイユ(Marseille)行の列車なのでニースで降りても良かったのだが、カンヌまでのんびりと乗ってみる。カンヌは映画祭で名高いが、駅前は雑然としていた。やがて入線してきたマルセイユ行は客車列車で、TERの列車種別ではあるものの車内はJRの特急並み。1等車のシックな内装もまた良い。列車は全ての駅に停車するわけではなく、小駅は猛然と通過してゆく。サン=ラファエル(St. Raphaël)までは引き続きコート=ダジュールを走る。これまでと少し違うのは、海岸線が赤土の岩になってきたこと。しかるに陸海空三者のコントラストが絶妙で、車窓を眺めているだけでも飽きない。サン=ラファエルから先は半島の付け根を横断するため列車は内陸へ入る。車内には午後の緩慢な空気が水飴のようにゆったりと対流している。車掌が回って来た。車内で切符を買い求める人が意外にも多い。こちらの鉄道駅には改札口というものは存在しないので、切符を買わずしても乗れる。検札時に切符を持っていないと罰金を払わされるそうだが、常に検札が来るとも限らないので、毎回律義に切符を買うのがばからしくなるのかもしれない。途中、カルヌール(Carnoules)という駅で貨物列車とすれ違った。鉄道撮影も面白そうな地域である。
・パリへ
トゥーロン(Toulon)で列車を降り、7分の接続でパリ行のTGVに乗る。列車は巨大な2階建車両で編成されていて、大陸スケールを改めて感じさせられる。1等車は1+2列の座席配置。長時間乗っていてもそれほど疲れない。途中までは在来線を走るためスピードは先ほどのTERとあまり変わらないが、マルセイユから先はTGVの専用線に入る。パリまでの停車駅はエクサンプロヴァンスTGV(Aix en Provence TGV)のみ。これはTGVの専用線上につくられた駅で、新幹線で例えるなら新神戸や東広島といったところか。ホームには大勢の乗客が待っていて、ここでほぼ車内は満席になった。車窓は単調で、列車は荒涼たる平原の中を一直線に疾走する。だんだんと日が暮れてきて、ついに真っ暗になってしまった。フランスは農業大国でもあり、大都市を少し離れると北海道のような風景が広がっている。町の灯りは時々見える程度で、辺りの様子は何も分からない。
リヨン駅(Gare de Lyon)には定刻に到着。ターミナル駅の広大な空間を人の群れがうごめく。夜のパリは雨。地下鉄で宿へ向かった。
写真
1枚目:エズ村の町並
2枚目:頂上からの眺め
3枚目:紺碧海岸の車窓
4047文字
3/18
Hôtel de Ville 835 → Col de Villefranche 850
Lignes d’azur 【80】系統
Col de Villefranche 924 → Eze Village 930
Lignes d’azur 【112】系統
エズ(Eze)観光
Eze Village 1240 → Gare SNCF Eze 1258
Lignes d’Azur 【83】系統
Eze sur Mer 1322 → Cannes 1419
TER 86186
Cannes 1456 → Toulon 1612
TER 17486
Toulon 1619 → Paris Gare de Lyon 2011
TGV 6156
Gare de Lyon → Châtelet
メトロ【14】号線
Châtelet → Tuileries
メトロ【1】号線
パリ泊
WESTIN PARIS
・海岸線を見下ろす
ヴィルフランシュ=シュル=メールの朝はすがすがしい。半島の向こう側に沸き立った雲海から、朝日が姿を現す。湾内は暖かな逆光に包まれ、山腹にへばりついた石畳の町は黄色く輝き始める。今日も晴れ。この辺りは一年を通してほとんど雨が降らないのではなかろうか。
湾岸地区に向かって少し下ったところにあるバス停へ向かう。やって来たバスはかなり小さく、既に車内は結構込んでいた。なるほど、崖上の幹線道路からヴィルフランシュの港へ向かう道路はつづら折りになっているから、小回りが利く車でないと走れないようである。それでも途中で切り返す場面があった。道が狭く一方通行の場所も多々あり、町自体も独特の不規則な構造をしているため、運転は相当慣れていないと無理かもしれない。乗換のため、コル=ド=ヴィルフランシュ(Col de Villefranche)というバス停で降りる。ここは、港へ向かう道路が幹線道路から分岐する賑やかな交差点である。
下調べによれば9時6分発のバスが来るはずだったが何故か現れず、結局半時間以上待って9時24分発のバスに乗ることになった。崖上の幹線道路を行く別系統のバスでエズ村に向かう。バスはずいぶんと高い場所を走っていて、窓から見下ろす海岸線は絶景。半島に区切られた小さな入り江にはヴィルフランシュの町があり、赤い屋根の建物が階段状に港を取り囲んでいる。あの建物の合間を石畳の路地が縦横無尽に走り、しかもつい先ほどまであそこに居たのかと思うと不思議な気分。朝日に映える小さな港町は実に美しい眺めである。谷に架かった大きな陸橋を渡れば、エズに到着。
・エズ
ここは断崖絶壁にそびえ立つ城塞の村で、海抜は400mを超える。石垣に囲われた小さな町には商店や飲食店が立ち並び、ところどころ建物が切れたところには地中海が眼下に展開する。ヴィルフランシュ=シュル=メールと同じような造りの中世の町並がよく残っていて、不規則に走り交差する路地はまるで迷路のよう。色々撮り歩きながら頂上の方へ上がっていく。町並自体は美しいが、人々の生活感はあまりなく、観光化・俗化している感も否めない。そういえば観光案内所も建てられていたし、しかもそこのチップ式トイレの入り口に「有料だからお金が要る」旨が日本語で書かれていたのには驚いた。エズはヴィルフランシュ=シュル=メールとは違い、崖上を走る幹線道路にすぐ面した立地なので観光化が進んだのかもしれない。一方のヴィルフランシュは急峻な地形と複雑な道路構成が俗化を阻んでいるともいえる。
頂上の城は熱帯植物園になっていて、サボテンやリュウゼツランなどの熱帯植物が地中海を見ながら育っている。ここから見下ろす海岸線の眺めは何とも壮大で、まるで鳥になった気分である。浜辺には鉄道が東西に走り、せり出した半島をトンネルで貫いている。半島の向こう側の入り江はヴィルフランシュ=シュル=メールで、そのさらに向こう側の半島を越えるとニースに至るという地理である。海岸線から急に立ち上がる山に抱かれて町が展開し、道路が走っているのも何条か見える。海は紺碧だが、浅瀬はエメラルドグリーンに光り、正午近くのトップライトを受けて鮮やかに景色を彩っている。優しい白波が規則的に海岸に押し寄せ、灰色の砂浜を縁取っている。水平線はややおぼろげだが、晴れた夏の日などは空と海のコントラストがより一層はっきりするのかもしれない。
植物園から城塞の入り口まで戻る途中、「Le Cactus」というカフェでクレープ=サレ(crêpe salée)を食べる。軽食とはいえピザと似たようなものでなかなか食べ応えがある。日なたは暑いが日陰は涼しく、風が心地よく吹き抜ける。湿度の低い気候はさぞ暮らしやすいことだろう。
中世の町を去り、崖下の国鉄エズ駅まで向かうべくエズ=ヴィラージュ(Eze Village)のバス停からこれまた別系統のバスに乗る。運賃は1ユーロと格安。往路では乗換を行ったが、これも1ユーロの通し運賃。実はバスではなく徒歩で下る「ニーチェの小径」というルートもあったのだが、時間もかかってくたびれそうなのでバスを選んだ。バスはほぼ貸切状態で、途中で1人だけ地元住民が乗降していった。つづら折りの坂道を猛スピードで駆け降りるので、景色は相変わらず素晴らしいが、気圧変化と回転加速度が重なってなかなかつらい。
・コート=ダジュール
13時22分発の普通列車に乗り、ここからは列車を乗り継いで遥かパリを目指す。2駅でヴィルフランシュ=シュル=メール。その景色に別れを告げ、さらに2駅進むとニース。ニース近辺は完全な市街地が続き、かなりゴミゴミした様相を呈している。大がかりな施設や建物が立ち並び、便利には便利そうだが、残念ながら落ち着いた雰囲気は全く感じられない。少しすると、列車は道路を挟んで砂浜に沿うように走る。シーズンになるとこの辺りはきっと凄まじい賑わいを見せるのだろう。
乗り継ぐのはニース始発マルセイユ(Marseille)行の列車なのでニースで降りても良かったのだが、カンヌまでのんびりと乗ってみる。カンヌは映画祭で名高いが、駅前は雑然としていた。やがて入線してきたマルセイユ行は客車列車で、TERの列車種別ではあるものの車内はJRの特急並み。1等車のシックな内装もまた良い。列車は全ての駅に停車するわけではなく、小駅は猛然と通過してゆく。サン=ラファエル(St. Raphaël)までは引き続きコート=ダジュールを走る。これまでと少し違うのは、海岸線が赤土の岩になってきたこと。しかるに陸海空三者のコントラストが絶妙で、車窓を眺めているだけでも飽きない。サン=ラファエルから先は半島の付け根を横断するため列車は内陸へ入る。車内には午後の緩慢な空気が水飴のようにゆったりと対流している。車掌が回って来た。車内で切符を買い求める人が意外にも多い。こちらの鉄道駅には改札口というものは存在しないので、切符を買わずしても乗れる。検札時に切符を持っていないと罰金を払わされるそうだが、常に検札が来るとも限らないので、毎回律義に切符を買うのがばからしくなるのかもしれない。途中、カルヌール(Carnoules)という駅で貨物列車とすれ違った。鉄道撮影も面白そうな地域である。
・パリへ
トゥーロン(Toulon)で列車を降り、7分の接続でパリ行のTGVに乗る。列車は巨大な2階建車両で編成されていて、大陸スケールを改めて感じさせられる。1等車は1+2列の座席配置。長時間乗っていてもそれほど疲れない。途中までは在来線を走るためスピードは先ほどのTERとあまり変わらないが、マルセイユから先はTGVの専用線に入る。パリまでの停車駅はエクサンプロヴァンスTGV(Aix en Provence TGV)のみ。これはTGVの専用線上につくられた駅で、新幹線で例えるなら新神戸や東広島といったところか。ホームには大勢の乗客が待っていて、ここでほぼ車内は満席になった。車窓は単調で、列車は荒涼たる平原の中を一直線に疾走する。だんだんと日が暮れてきて、ついに真っ暗になってしまった。フランスは農業大国でもあり、大都市を少し離れると北海道のような風景が広がっている。町の灯りは時々見える程度で、辺りの様子は何も分からない。
リヨン駅(Gare de Lyon)には定刻に到着。ターミナル駅の広大な空間を人の群れがうごめく。夜のパリは雨。地下鉄で宿へ向かった。
写真
1枚目:エズ村の町並
2枚目:頂上からの眺め
3枚目:紺碧海岸の車窓
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