東海・北陸旅行 前篇
2011年2月3日 鉄道と旅行
旅立ちの朝が来た。
・往路
からっと晴れた、すがすがしい朝である。特急スーパーあずさ1号は身をくねらせながら内陸へと突き進んでゆく。空は紺碧、山は枯木の薄茶色。乾き果てた冬景色はまるで心の砂漠のようだ。
豊橋行544Mは実に6時間35分の所要で、辰野から飯田線に入る。二大山脈に挟まれた伊那盆地を南下し、町中の駅にこまめに停車してゆく。試験期間だろうか、この時間なのに高校生が多い。天竜峡を過ぎると人の住む気配がふいになくなり、列車は崖下にへばりつくように天竜川の岸を走る。鋭く削られた谷には、水力発電所が点在。飯田線には整理券のシステムがないらしく、検札担当の車掌がひたすら車内を歩き回っている。ゆったりとした午後のひと時、列車に揺られながら、柄にもなく小説を読む。終点の豊橋に降り立った頃には、辺りはすでに斜光線に包まれていた。
星越山というトンネルをくぐる。古びたポータルが妙に記憶に残る。運転席の時刻表が真白なLEDに照明されて、妖しくも美しい。この不気味な冷たさが、トンネルの轟音を増幅している。
名古屋で途中下車し、地下街の「矢場とん」という店で味噌カツを食した。嫌いな味ではないが、全体的に湿っていて結構ドロドロの食感である。客はみな地元民といった風で、荷物を背負った自分はいかにも異質な感じであった。
日は暮れた。地上に出てみると、すっかり夜である。関西本線の列車は帰宅ラッシュと完全にかぶってしまった。車内に居た高校生が受験の話をしている。早いもので、もうそんな時期か。亀山で加茂行の列車に乗り継ぎ、奈良盆地を目指す。車内の蛍光灯は薄暗く、乗客の表情も翳って見える。車窓は真っ暗で、時おり、各駅のホームが姿を現すのみだ。
片町線と東西線を経由し、大阪に着く頃には22時をとうに回っていた。急行きたぐにの入線までにはまだ少しあるから、駅を出て散策する。異郷の夜に一人、不思議な気分である。彼らの日常と、自分の非日常。その間を吹き抜ける隙間風に乗って、色々な思いが去来する。そろそろ11番線に向かおうか。
写真
1枚目:飯田線544M@駒ヶ根
2枚目:区間輸送@豊橋
3枚目:大阪の夜
1682文字
2/3
武蔵溝ノ口620 → 立川656
南武線637F クハ204-139
立川721 → 上諏訪914
中央本線1M 特急スーパーあずさ1号 モハE350-1004
上諏訪919 → 豊橋1554
中央本線・飯田線544M クモハ313-1702
豊橋1603 → 名古屋1657
東海道本線2337F 新快速 クハ312-5006
名古屋1804 → 亀山1919
関西本線1323M クモハ213-5001
亀山1926 → 加茂2046
関西本線263D キハ120 7
加茂2047 → 木津2053
関西本線483Y 区間快速 サハ201-78
木津2056 → 尼崎2211
片町線・JR東西線5539M 快速 モハ207-1004
尼崎2220 → 大阪2227
東海道本線2784M 快速 クハ206-2003
・往路
からっと晴れた、すがすがしい朝である。特急スーパーあずさ1号は身をくねらせながら内陸へと突き進んでゆく。空は紺碧、山は枯木の薄茶色。乾き果てた冬景色はまるで心の砂漠のようだ。
豊橋行544Mは実に6時間35分の所要で、辰野から飯田線に入る。二大山脈に挟まれた伊那盆地を南下し、町中の駅にこまめに停車してゆく。試験期間だろうか、この時間なのに高校生が多い。天竜峡を過ぎると人の住む気配がふいになくなり、列車は崖下にへばりつくように天竜川の岸を走る。鋭く削られた谷には、水力発電所が点在。飯田線には整理券のシステムがないらしく、検札担当の車掌がひたすら車内を歩き回っている。ゆったりとした午後のひと時、列車に揺られながら、柄にもなく小説を読む。終点の豊橋に降り立った頃には、辺りはすでに斜光線に包まれていた。
星越山というトンネルをくぐる。古びたポータルが妙に記憶に残る。運転席の時刻表が真白なLEDに照明されて、妖しくも美しい。この不気味な冷たさが、トンネルの轟音を増幅している。
名古屋で途中下車し、地下街の「矢場とん」という店で味噌カツを食した。嫌いな味ではないが、全体的に湿っていて結構ドロドロの食感である。客はみな地元民といった風で、荷物を背負った自分はいかにも異質な感じであった。
日は暮れた。地上に出てみると、すっかり夜である。関西本線の列車は帰宅ラッシュと完全にかぶってしまった。車内に居た高校生が受験の話をしている。早いもので、もうそんな時期か。亀山で加茂行の列車に乗り継ぎ、奈良盆地を目指す。車内の蛍光灯は薄暗く、乗客の表情も翳って見える。車窓は真っ暗で、時おり、各駅のホームが姿を現すのみだ。
片町線と東西線を経由し、大阪に着く頃には22時をとうに回っていた。急行きたぐにの入線までにはまだ少しあるから、駅を出て散策する。異郷の夜に一人、不思議な気分である。彼らの日常と、自分の非日常。その間を吹き抜ける隙間風に乗って、色々な思いが去来する。そろそろ11番線に向かおうか。
写真
1枚目:飯田線544M@駒ヶ根
2枚目:区間輸送@豊橋
3枚目:大阪の夜
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