北海道旅行 終章
北海道旅行 終章
北海道旅行 終章
3/11 → 3/12
苫小牧1808 → 上野938
室蘭本線・函館本線・江差線・海峡線・津軽線・青い森鉄道・IGRいわて銀河鉄道・東北本線2レ 特急北斗星 オハネ25 551

帰路
西の方角にはまだかすかに光が残っているが、青インクが如く東の空から湧いてきた寒色の闇に、辺りは急速に包まれてゆく。外を見ると、列車の灯りが車窓から漏れている。DD51の重連に率いられて列車は黄昏の室蘭本線をひた走り、宵闇の冷たい風が容赦なく顔を打つ。いよいよ昏くなってきた。

ロビーカーで雑談していると、長万部を過ぎた頃にもうパブタイムの案内があった。上りの北斗星は予約制のディナータイムが2回分設定されているはずだが、今日は予約客が少なかったということだろうか。ひとまず食堂車に腰を落ち着けて、函館本線の夜を過ごす。ゆったりとした時間。ゴトゴトと列車に揺られる愉しみ。車両こそ古いが、依然根強い人気があるというのも頷ける。

そうこうしているうちに、函館に到着した。函館山の稜線が闇に浮かんでいる。頂上の展望台からは、さぞ美しい夜景が見渡せることだろう。次に北海道に来るときは、道南・道央を中心に訪れてみたいものである。重連のDD51はここで解放され、反対側に津軽海峡線用のED79が連結される。特急列車だけあって停車時間は短く、機関車を交換するとすぐに函館を発車。江差線に入ってしばらくした後、窓外を見渡せば、列車は闇の海岸線をなぞりながら走っている。眼前に黒々と横たわるは、闇に沈んだ津軽海峡。時おり汽笛が寂しげに夜空にちぎれてゆく。22時38分、青函トンネルに進入。さらば北海道。

夜のロビーカー。先輩との対話。敢えて内容は書かないが、いつか時間があるときに取り上げてみたい。今宵はなかなか深かった。旅行とは「対話」の場であると私は考えている。つまり、一人旅では自分との対話、他人との旅ではその同伴者との対話。旅行が非日常である以上、すなわち普段の自分を一段高いところから冷静に俯瞰できる環境である以上、かかる対話によって自分の内面と素直に向き合うことができる。同時に、他人との対話は自らの見識を広げ、思考の材料を提供してくれるものと思っている。「鉄道趣味」という原動力から旅行がなされる。しかしながら旅行が終わったときには、その趣味を満足したという喜び以上のものが得られていることが往々にしてあるのは、相手が自分であれ他人であれ、旅行が非日常に支えられた対話の場として機能しているからに他ならない。今回に関していえば、対話の質は極めて高かった。今後に関しても、対話の質というものを旅行の出来不出来を評価する一つの指標にしたいと思う。

旅行は「気分転換」「気晴らし」の一言で簡単に片付けられるほど浅いわけではない。むろん日帰りのちょっとしたものに関してはこの限りではないのだが、数泊の長期旅行となるとやはり深みが違ってくる。たしかに、留辺蘂近辺で石北臨貨が撮れるだとか、レンタカーを使えば効率的に宗谷岬を観光できるだとか、豪華寝台特急北斗星に乗れるだとか、そういう直接的な愉しみ、見かけ上の旅行の愉しみというのはあるし、平凡な日常と対比してこれを非日常の気分転換と呼ばないのはむしろおかしく思える。だが、そういったものの一切を取り除いたときに残るものは一体何なのか。たとえば留辺蘂までの車窓を見ていてふと心に紛れ込んできた思いだとか、宗谷岬でシャッターを切り続けるその合間、異国の地を目にしてふと湧き起こった感情だとか、まさに先刻ロビーカーで行われた先輩との対話だとか、「愉しみの隙間」に挟まったもの、すなわち自他との対話の産物こそが、旅行の真の愉しみであり醍醐味、そして非日常性の本質そのものといえよう。そういうふうに考えている。

今宵の内容を十分に咀嚼し、今後の自分に対して正しく活かせるのならば、これ以上の喜びはない。いつの間にか列車は本州に上陸し、深夜の東北本線を一路南下し始めている。そろそろ眠りに就こう。

朝は福島あたりで目が覚めた。定刻で走っているようだ。食堂車で一杯のレモンティー。見れば、外は通勤・通学ラッシュである。いよいよ慌ただしい日常に戻って来た。上野駅の13番線に降り立てば、もう非日常のプールからはすっかり上がり、何事もなかったかのように日常が始まるのである。

参考:3月11日発2レ 北斗星の編成
(←札幌)機関車EF81 92・機関車ED79 12・1号車オハネフ25 2・2号車オハネフ24 501・3号車オハネ25 561・4号車オハネ25 563・5号車オハネ25 551・6号車スハネ25 503・7号車スシ24 504・8号車オロネ24 501・9号車オロハネ25 502・10号車オロハネ24 551・11号車オハネフ25 12・電源車カニ24 507・機関車DD51 ?+?(上野→)

写真
1枚目:パブタイム
2枚目:闇の海岸線
3枚目:夜は更ける

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