目覚めると、富山の街には未明の冷雨が降っている。
・高山本線キハ58
平日朝限定で運用につくキハ58を追いかけに来た。往年の急行形気動車、最後の活躍の場である。未だ夜の明けぬ西富山にやって来たのはワインレッドの高岡色ペアであった。国鉄色ペアを期待していたためいささか残念ではあったが、もはや色にこだわっていられないほどこの車両は激減してしまった。
空は徐々に明るくなり、先日の大雪の大部分が残る平地の姿が顕わになってゆく。やはり昨日と同じ、陰鬱な曇天の見下ろす青白い朝である。千里で下車し、少しばかり速星方面に歩いたところから上下列車を撮影する。朝は2.5往復しか走らないため1本の列車を大切に撮らねばならない。南側に聳える雪山が画面に華を添えるが、宅地化が進んでいるため狭くしか切り取れないのが残念である。
その後は西富山~婦中鵜坂の井田川を渡ったところで撮影。852Dの10分後にはDE10牽引の速星行貨物列車もやって来る。幸運なことに、こちらは国鉄色の牽引であった。雨風が激しく、冷気は容赦なく体の芯まで蝕んでゆく。これほど過酷な撮影になるとは思っていなかった。
最後に速星へ出て、そこから富山までキハ58に揺られてみることにする。キハ120とは違った、重厚な走りを見せる。富山まではたったの16分。朝の運用はこれで終了。通勤通学客を運び、やがて列車は回送されてゆく。かつては急行形として各地を駆け巡っていたこの車両、波動輸送に駆り出されるその哀れな末路を見たような気もした。
・城端線
城端線を乗りつぶす。キハ40の単行であるが、車内はかなり混んでいる。高岡を出た列車はひたすら砺波平野を南下してゆく。それぞれの家が屋敷森に囲まれた散居村はこの地方独特の景観か。列車の進行方向正面には雪を冠った山々が迫る。城端からは白川郷行のバスも出ているようである。またの機会に訪れてみたい。のどかな盲腸線の旅であった。
・金沢
21世紀美術館は円の造形美。兼六園は5年前の夏に訪れたことがあるが、あの時は列車に間に合わないとか何とかで慌ただしく園内を回った。冬ということでなかなか寂しい佇まいを見せているが、梅や桜の咲く頃になると大勢の人が詰めかけるのだろう。スローシャッターで水流を流したり、水鏡を写してみたり、奔放な撮影を愉しむ。さすがは50D、静物写真に強い。金沢城址は修復中の箇所が目立ったが、夕景に映える城郭が美しい。黄昏の主計町は、うら寂しい雰囲気である。雪の積もる頃はいっそう魅力的になろう。
・和倉温泉
七尾線の乗りつぶしも兼ねて、和倉温泉の総湯に浸かる。典型的な硫黄臭ではなく、塩味の湯である。海に近い温泉はそうなるとか言っている入浴客が居たが、たしかに納得できる。町は静かな闇に包まれている。七尾までは乗り継ぎの列車がないので、やむを得ずタクシーで戻った。
・復路
金沢では能登と北陸が顔を並べる。永らく続いてきた北陸夜行にもいよいよ終止符が打たれようとしている。国鉄型同士の華麗なる競演を、しっかりと撮像素子と網膜に焼き付ける。復路はソロ個室である。金沢を発車した列車は軽快に北陸本線を東進してゆく。金沢で買った鰤の押し寿司が美味である。高岡、富山、魚津。列車は町々を結ぶ。最後尾から暗黒の車窓に見入ると、鈍く光る複線の鉄路が長く伸びている。やがて列車はトンネルへ。今は富山・新潟の県境あたりだろうか。ちょうど0時を迎える頃、列車は海岸近くの小駅を猛然と通過。すぐ傍には北陸自動車道のナトリウムランプが点々と橙色のしみを描いているから、おそらくは親不知駅だろう。糸魚川0時08分着、09分発。大糸線のホームにはキハ52の125号と156号が眠っている。出来れば冬にもう一度訪れたい。個室に戻り、部屋の灯りを消す。そろそろ頸城トンネルに入った頃だろうか。0時24分、筒石駅通過。全長11kmを超える長大トンネル内に突如として現れる不気味な小駅。トンネルに入ると、規則的に過ぎ去ってゆく電灯が稲妻のようにビカビカと個室内に射し込んでくる。ようやくトンネルを抜けたところで、名立駅を通過。0時27分。しばらくすると波の押し寄せる深夜の日本海が車窓に浮かんでくる。外はさぞ寒いことだろう。乗客の眠りを運びながら、列車は海岸べりを快調に飛ばしてゆく。0時38分、ほどなくして直江津に到着である。その後、眠りに落ちた。
上野到着は定刻の6時19分。まだ夜は明けていない。行き止まりの14番線に到着した列車の周りに大勢の人が群がっている。20分あまり停車した後、EF64の推進で尾久へと回送されていった。旅も終幕である。
参考:12月28日発3002レ・3012レ 北陸の編成
(←上野・金沢)機関車EF64 1053・1号車スハネフ14 20・2号車スハネ14 701・3号車オロネ14 701・4号車スハネ14 758・5号車スハネフ14 28・6号車スハネ14 756・7号車オハネ14 63・8号車スハネフ14 30・機関車EF81 140(長岡→)
写真
1枚目:雪山を背に富山を目指すキハ58(@千里~速星)
2枚目:翠滝(@兼六園)
3枚目:顔を並べる北陸夜行(@金沢)
3480文字
12/28
富山551 → 西富山556
高山本線840D キハ120-348
841D撮影
西富山630 → 千里642
高山本線842D キハ120-350
844D・849D撮影
千里827 → 婦中鵜坂839
高山本線851D キハ120-348
852D・1090レ撮影
婦中鵜坂955 → 速星958
高山本線854D キハ120-348
速星1009 → 富山1026
高山本線857D キハ58 1114
富山1053 → 高岡1105
北陸本線1052M 特急北越2号 クハ481-3034
高岡1201 → 城端1249
城端線333D キハ40 2092
城端1257 → 高岡1343
城端線336D キハ40 2092
高岡1354(+26) → 金沢1419(+25)
北陸本線1054M 特急北越4号 クハ481-3034
21世紀美術館・兼六園・金沢城址・主計町
金沢1706 → 七尾1832
北陸本線・七尾線853M モハ414 805
七尾1835 → 和倉温泉1841
七尾線145D NT212
和倉温泉総湯・七尾まではタクシー
七尾2012 → 金沢2138
七尾線・北陸本線866M クハ415 807
12/28 → 12/29
金沢2218 → 上野619
北陸本線・信越本線・上越線・高崎線・東北本線3002レ・3012レ 特急北陸
スハネ14 758
・高山本線キハ58
平日朝限定で運用につくキハ58を追いかけに来た。往年の急行形気動車、最後の活躍の場である。未だ夜の明けぬ西富山にやって来たのはワインレッドの高岡色ペアであった。国鉄色ペアを期待していたためいささか残念ではあったが、もはや色にこだわっていられないほどこの車両は激減してしまった。
空は徐々に明るくなり、先日の大雪の大部分が残る平地の姿が顕わになってゆく。やはり昨日と同じ、陰鬱な曇天の見下ろす青白い朝である。千里で下車し、少しばかり速星方面に歩いたところから上下列車を撮影する。朝は2.5往復しか走らないため1本の列車を大切に撮らねばならない。南側に聳える雪山が画面に華を添えるが、宅地化が進んでいるため狭くしか切り取れないのが残念である。
その後は西富山~婦中鵜坂の井田川を渡ったところで撮影。852Dの10分後にはDE10牽引の速星行貨物列車もやって来る。幸運なことに、こちらは国鉄色の牽引であった。雨風が激しく、冷気は容赦なく体の芯まで蝕んでゆく。これほど過酷な撮影になるとは思っていなかった。
最後に速星へ出て、そこから富山までキハ58に揺られてみることにする。キハ120とは違った、重厚な走りを見せる。富山まではたったの16分。朝の運用はこれで終了。通勤通学客を運び、やがて列車は回送されてゆく。かつては急行形として各地を駆け巡っていたこの車両、波動輸送に駆り出されるその哀れな末路を見たような気もした。
・城端線
城端線を乗りつぶす。キハ40の単行であるが、車内はかなり混んでいる。高岡を出た列車はひたすら砺波平野を南下してゆく。それぞれの家が屋敷森に囲まれた散居村はこの地方独特の景観か。列車の進行方向正面には雪を冠った山々が迫る。城端からは白川郷行のバスも出ているようである。またの機会に訪れてみたい。のどかな盲腸線の旅であった。
・金沢
21世紀美術館は円の造形美。兼六園は5年前の夏に訪れたことがあるが、あの時は列車に間に合わないとか何とかで慌ただしく園内を回った。冬ということでなかなか寂しい佇まいを見せているが、梅や桜の咲く頃になると大勢の人が詰めかけるのだろう。スローシャッターで水流を流したり、水鏡を写してみたり、奔放な撮影を愉しむ。さすがは50D、静物写真に強い。金沢城址は修復中の箇所が目立ったが、夕景に映える城郭が美しい。黄昏の主計町は、うら寂しい雰囲気である。雪の積もる頃はいっそう魅力的になろう。
・和倉温泉
七尾線の乗りつぶしも兼ねて、和倉温泉の総湯に浸かる。典型的な硫黄臭ではなく、塩味の湯である。海に近い温泉はそうなるとか言っている入浴客が居たが、たしかに納得できる。町は静かな闇に包まれている。七尾までは乗り継ぎの列車がないので、やむを得ずタクシーで戻った。
・復路
金沢では能登と北陸が顔を並べる。永らく続いてきた北陸夜行にもいよいよ終止符が打たれようとしている。国鉄型同士の華麗なる競演を、しっかりと撮像素子と網膜に焼き付ける。復路はソロ個室である。金沢を発車した列車は軽快に北陸本線を東進してゆく。金沢で買った鰤の押し寿司が美味である。高岡、富山、魚津。列車は町々を結ぶ。最後尾から暗黒の車窓に見入ると、鈍く光る複線の鉄路が長く伸びている。やがて列車はトンネルへ。今は富山・新潟の県境あたりだろうか。ちょうど0時を迎える頃、列車は海岸近くの小駅を猛然と通過。すぐ傍には北陸自動車道のナトリウムランプが点々と橙色のしみを描いているから、おそらくは親不知駅だろう。糸魚川0時08分着、09分発。大糸線のホームにはキハ52の125号と156号が眠っている。出来れば冬にもう一度訪れたい。個室に戻り、部屋の灯りを消す。そろそろ頸城トンネルに入った頃だろうか。0時24分、筒石駅通過。全長11kmを超える長大トンネル内に突如として現れる不気味な小駅。トンネルに入ると、規則的に過ぎ去ってゆく電灯が稲妻のようにビカビカと個室内に射し込んでくる。ようやくトンネルを抜けたところで、名立駅を通過。0時27分。しばらくすると波の押し寄せる深夜の日本海が車窓に浮かんでくる。外はさぞ寒いことだろう。乗客の眠りを運びながら、列車は海岸べりを快調に飛ばしてゆく。0時38分、ほどなくして直江津に到着である。その後、眠りに落ちた。
上野到着は定刻の6時19分。まだ夜は明けていない。行き止まりの14番線に到着した列車の周りに大勢の人が群がっている。20分あまり停車した後、EF64の推進で尾久へと回送されていった。旅も終幕である。
参考:12月28日発3002レ・3012レ 北陸の編成
(←上野・金沢)機関車EF64 1053・1号車スハネフ14 20・2号車スハネ14 701・3号車オロネ14 701・4号車スハネ14 758・5号車スハネフ14 28・6号車スハネ14 756・7号車オハネ14 63・8号車スハネフ14 30・機関車EF81 140(長岡→)
写真
1枚目:雪山を背に富山を目指すキハ58(@千里~速星)
2枚目:翠滝(@兼六園)
3枚目:顔を並べる北陸夜行(@金沢)
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コメント
北陸に行かれていたのですね!
なんだか、すばらしい行程ですね…
恥ずかしながら、高山線にキハ58が残っていたとは初めて知りました。
これは乗りに行かねば。
キハ58の定期運用を知ったのは実は私も結構最近でした。北陸地区は国鉄型車両の聖地として最後まで残った感がありますが、北陸新幹線の開業が大きな転機となることは間違いないでしょう。私も、これから機会があれば大糸線や高山本線や北陸本線を積極的に訪れようかと思っています。