トンネル駅筒石
トンネル駅筒石
トンネル駅筒石
駅前の「あおい食堂」で夕食をとる。2年前の1月に糸魚川に一泊した時にこの店を知ったのだった。室内の白熱灯が家庭的で温かい雰囲気を醸し出している。カツ丼を食した。20時を過ぎた駅前は既にひっそりとしている。客待ちの数台のタクシーにぽっかりと灯るテールランプがどこか寂しい感じである。

糸魚川2032 → 筒石2052
北陸本線557M クモハ419 8
きたぐにの発車時刻は翌未明の1時24分。まだ5時間ほどもあってさすがに暇であるから、撮影の難しい夜間は少し足を伸ばして観光に赴くとする。四つ隣の筒石は、トンネル内の駅として著名な駅である。これまでこの区間は2回ほど普通列車で通過したことがあるが、どちらとも車内からホームを漠然と眺める程度であった。今回は下車してしばらく滞在してみようということである。ホームには既に419系が入線していた。遠路はるばる福井からやってきた列車である。ここ北陸の地では、「食パン」と揶揄されながらも583系改造車が活躍している。糸魚川を発車するとやがて死電区間に入り、室内灯が落ちて橙色の非常灯に切り替わる。この幻想的な雰囲気が好きである。

車窓は闇。時が止まったような錯覚を覚え始めた頃に、それまでのことが嘘だったかのように室内灯が再点灯し、空調の唸りも再び聞こえ始める。梶屋敷、浦本と停まり、能生を過ぎるとすぐに頸城トンネルに入る。やがて目的のトンネル駅、筒石に到着である。

ホームは上下線で交互に配置されている。トンネルの断面積を小さく抑えるための工夫らしい。降りたのは私一人。列車が過ぎ去っても、しばらくは走行音が反響する。引き戸を開けて待合室に入る。特急列車が毎時130kmで通過すると強烈な風圧が発生するということで、ホームと待合室を隔てる扉は気密性が保たれているようだ。待合室内にはベンチが置かれ、壁には普通列車の時刻表と時計があるのみ。天井は円形に湾曲し、蛍光灯が寂しく灯る。暗いコンクリートに囲まれ、気温は冷涼、湿度は高い。駅の待合室にしては、何とも異様な雰囲気である。

駅舎に向かうとする。まずは66段の階段を登って、上りホームから来る通路に合流する。この辺りの北陸本線が沿岸を走っていた頃の旧筒石駅は普通の地上駅だったが、全長11353mの頸城トンネルが開通した際に、その斜坑を利用して現在の地下駅として移設されたとのことである。通路は薄暗く、じめじめしている。息を吐けば、ほんのかすかに白む。カメラのシャッター音が不気味なほど大きく反響し、まるで牢獄のよう。地上の駅舎まで出るにはさらに224段の階段を登らねばならない。下から見上げればなかなか壮観な光景である。

ようやく地上に出ると、駅員が待っていた。こんな時間に訪ねてくる観光客はふつう居ないらしく、怪訝な目で見られる。最終列車で糸魚川に引き返し、その後きたぐにに乗る旨を説明すると、マルスではあるが糸魚川までの乗車券を発行してくれた。ついでに入坑・入場証明書と筒石駅の案内をもらう。地元の人々にとってみれば当たり前のトンネル駅なのだろうが、私などからしてみれば相当に斬新な駅である。帰りの列車まではまだ1時間半以上もあるので、待合室で本でも読むことにする。駅の外は小さな広場になっていて、街灯を除けばほぼ闇である。駅舎はプレハブ倉庫のような質素なつくりで、地下の大トンネルまでを穿つ斜坑の入口としてみれば絶妙な趣。駅舎内はそこそこに蒸し暑いが、ふいに涼しい風が吹き抜ける。エアコンがかかったのかと思って見渡すも、そのような設備はない。トンネル内を列車が通過しているのである。はるか地底から吹き上げてくる涼風もまた不気味である。

さて、そうこうしているうちに時間となった。再び斜坑に潜り、今度は上りホームへ向かう。

筒石2241 → 糸魚川2300
北陸本線584M クハ418 8
駅員氏に見送られて、筒石を去る。実に面白い駅であった。また機会があれば、是非訪れてみたいところである。583系と同じどっかりとしたボックスシートに腰かけ、車窓を眺めていれば糸魚川に到着。普通列車にしてはやたらに高い天井、せり出した寝台収納、デッキの折戸などなど、過去の遺物といった感が否めないこの車両であるが、乗ってみると実にしっくりくるものがある。

再び糸魚川に戻って来た。

写真
1枚目:筒石駅待合室。
2枚目:分岐点。右側に降りれば直江津方面、直進すれば糸魚川方面。
3枚目:改札口への長大なる階段。

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