厳冬の日本海
雪辱はまだ果たされたわけではない。

だからこそ私は行くのである。

今宵、厳冬の日本海へ。

上野2145→酒田519(+15)
特急あけぼの オハネフ24 19
21時を過ぎた上野駅は未だに多くの人が行き交っていましたが、長距離列車の多く発着する地下コンコースともなれば話は別で、13番線には次に入って来る青森行の特急列車を待つ人々が立っているのみ。そしてその列車こそ、今晩乗ることになる特急あけぼの号だったわけです。寒い構内で待つことしばし、まもなく尾久方から推進運転で列車が入線してきました。いよいよ旅の始まりであります。

乗り込んだのはゴロンとシートの車両。通常の開放B寝台から枕や布団などのリネン類を取り払ったサービスですが、扱い上は特急の指定席と同様です。ということは、土・日きっぷ、すなわち、特に中高生にとってみれば、9000円で北東北を除くJR東日本会社線の新幹線と特急が土日に乗り放題という、実に御得な切符を以てして、ただの指定席にしては抜群に快適なこの「座席」を利用することができるというわけです。本当は下段が希望だったのですが、なにぶん今回の旅行は準備が急ごしらえでしたので、上段寝台です。しかしそれでも今晩は満席といいますから、やはりゴロンとシートは格段に人気が高いと言って差し支えないでしょう。

で、梯子を登った高さに据えられた上段は、思いのほか快適な空間。車窓こそ無いものの、感心したのは通路上部に荷物置き場のスペースが設けられていることで、この点においては圧倒的に下段を凌いでいると思われます。カーテンを周りに引いてしまうと寝る分には全く問題無く、上り下りに若干難儀することを除けば下段と大差ありません。そういうわけでなかなか斬新な上段寝台の体験です。

荷物を置いてからホームに出て、軽く撮影。今晩の牽引機はEF81 137号機。のんびり撮っているともう丁度良い時分になっていたので、客車に戻りました。やがて扉が閉まり、それからしばらくしてからやって来るのは、あの振動。前にも書いた気がしますが、私はこの瞬間が大変に好きです。ゆっくりと、着実に速度を増していき、夜の上野駅を後にする青森行特急あけぼの。その長旅は今ここに始まったわけです。夜行列車での旅立ちとは、何にもまして旅情あふれるもの( ´∀`)

歯を磨き、顔を洗うと、あとは列車の心地よい振動に身を任せ、日付の変わる頃まで所在無い時間を過ごすのみ。減光された通路で補助椅子に腰かけ、流れていく夜の車窓に目をやるのもまた一興。見ると、高崎線本庄の辺りを走っているようです。あけぼのはもともと奥羽本線回りで上野と青森を結んできた伝統の東北夜行ですが、山形新幹線の開通・延伸に伴って経路変更を繰り返し、現在の上越線・羽越本線回りのルートを確立した経緯があります。それでもなお、上野と青森を結ぶ夜行列車として孤塁を守っているわけですから、今後も永く走り続けてほしいものです。

高崎が近づく頃になると寝台に戻って、「熱情」に聴き入りつつ、明日の撮影地の予習をしたりオーラルのセリフを覚えたりしながらゆったりとした宵を過ごし、そしてちょうど日付が変わった頃、眠りにつきました。

目が覚めてみると4時40分。私にしては珍しく、アラームで起きることが出来ました。酒田着は5時4分だったはずですから、丁度良い時刻です。車窓に目をやると、どうやら列車はある駅に停車した模様。見ると、鶴岡でした。ということは15分ほど遅れて運転しているようです。何しろ外はかなり吹雪いていましたから、遅れるのも無理はないでしょう。荷物の支度を整え、未明の銀世界を映す車窓に見入っていると、まもなく酒田に到着となりました。

酒田548→吹浦606
羽越本線 クモハ701-4
降り立った酒田駅は真冬の寒さ。舞い上げた粉雪で一面の雪化粧を纏った特急あけぼのは、わずかの停車時間の後、青森へ向け発車していきました。私は改札を出ると、ひとまず待合室にて休憩。酒田駅・・・嗚呼懐かしいですね。見たところ3年前と変わっていません。特急いなほ13号に乗ったは良いが、終着のこの駅まで寝過してしまったあの日の夜。あつみ温泉で折り返して乗る予定だった上野行のあけぼのは既に行ってしまい、この待合室で時刻表の羽越本線のページを絶望的な眼差しで眺めながら、大阪行日本海4号が発車していくのをただ呆然と見つめるだけだったあの日の夜。土・日きっぷの期限も切れて、予備費もろくに持たないまま駅前で途方に暮れたあの日の夜。そしてそこにやって来た2人の優しい巡査氏・・・今となっては想い出であります( ´∀`)

スパッツを装着し、時刻も丁度良くなったので、ホームへ。大館行の普通列車に乗車します。乗客はまばらで、暗闇の吹雪の中列車は発車。本楯、南鳥海、遊佐と停まっていき、その次の吹浦という駅で降ります。空はほんのうっすらと青くなってきました。しかし依然粉雪が吹き付ける中、雪に覆われた吹浦駅のホームに降り立ったのは私一人。やがて列車は赤い尾灯を残像にして、駅を去って行ったのでした。そして訪れた静寂。

@吹浦〜女鹿
ひとまず待合室で落ち着くとします。なかなか吹雪が激しいので、レインコートも着ることにしました。ちなみにこのレインコート、たたむとそこそこコンパクトな袋に収まって、しかもそれがゴロンとシートでは丁度良い枕代わりになるという優れもの。色々ともたもたしていたら既に到着から20分あまりが経過。外を見れば先ほどよりは辺りはずいぶんと明るくなり、吹雪も収まって来たことなので、いざ目的の撮影地へ。

駅前の道を左に、吹浦の集落の中を進んでいきます。既に雪かきを始められている方が何人かいらっしゃいました。本当に御苦労様です。やがて急な坂道に差し掛かりますが、駅から歩き続けること約15分、ここを越えると目の前には壮大な景色が展開します。青い鉛色を湛えた日本海、押し寄せては真っ白に砕け散っていく波、寂寞たる沿岸の表情、水平線の彼方まで連なっていく銀世界の陸地・・・これら全てが、厳冬の日本海を物語っていたわけです。この茫漠さに甚く魅せられたとでも言うのか、とにかく心を打たれましたね。小道に積もった粉雪はまだまっさらといった感じで、これらを散らし、足跡を刻んでいきながら、左側にこの壮観な光景を俯瞰しつつ、線路の走る海岸沿いへと降りていきます。海から吹きつける風こそ冷たいものの、先ほどまでの吹雪は止み、雲の間にはわずかの隙。朝日を受けているのでしょう、その裏側はうっすらと橙色を帯びていました。Every cloud has a silver lining. とは良く言ったものです。

坂道を下っていくとやがて湯ノ田という場所に出るので、ここで踏切を渡って並走する国道に出ます。345号線という道路で、めったに車は通りません。新潟と青森を結ぶ幹線国道の7号線は、もう少し陸地側に入ったところに通っているようです。あとはこの国道を北上するのみで、左手に一層近くなった日本海を見つつ、東側にゆるやかなカーブを切れば、目的地の鳥崎に到着です。ここまで吹浦駅から約3kmあまり。早歩きで来たので所要は30分ほどでした。

踏切を渡って少し陸側に坂道を登れば、丘の斜面に入る小道があります。既に先客の方々が4名いらっしゃいました。やはり皆さんも特急日本海を撮りに来られたようです。もう少し頑張って斜面にかじりつくと、一段上がった所からS字カーブの線路を見渡せる場所にたどり着いたので、私はそこでカメラを構えることにしました。ここは昔から有名な撮影地として知られていますが、いくら定番とはいえど定番が定番であり続けるためにはそれ自体がいわば不朽の魅力を兼ね備えた撮影地でなければならないはずです。ここは日本海をバックにして羽越本線の列車を狙うことが出来る格好のポイントで、特に今日などにあっては厳冬の日本海そのものといった感じの表情が素直に画面に表れてきそうです( ´∀`)

日本海をバックに特急日本海を撮る・・・これこそが念願だったのでした。来る3月改正では残念なことに特急日本海は1往復体制へと減便されることとなり、撮る側にしてみれば良い時間帯を走る日本海3号は過去のものへとなりつつあります。昨秋はここを訪れようと思うも風邪を引いてしまったり、あるいは相次ぐ数々の自然災害などなど、なにぶん遠方ということもあって特急日本海の撮影に関して私はとことん運が回って来なかった感が有るのですが、昨年末の新疋田で悔いを晴らして以来、日本海バックの特急日本海、私はこれにこだわってきたのです。そして、いよいよ雪辱の時というわけです。

先ほどから天候は不安定で、曇ったり、吹雪いたり、晴れ間がのぞいたり。3分先の空模様が読めない状況です。下り、上り共に701系の普通列車が通過して行った後は、いよいよ本命の日本海。やがて鳴り響いた踏切の警報音。これぞ戦慄。やがてS字カーブの奥から姿を現した特急日本海3号、牽引機はトワイライト色を纏ったEF81、連なる9両の客車はすっかり雪化粧。列車は美しくカーブを切りながら、線路際に積もった粉雪を巻き上げて、雪煙の中を駆け抜けてきました。荒波の押し寄せる日本海を背に、走り去っていく特急日本海、その雄姿に夢中になってシャッターを切ったのでした(729通過)。

願わくば、機関車は本来のローズピンク色であって欲しかったところですが、とはいえ、ひとまずこれにてようやく心の方が一段落したように思っています。

日本海の通過後は、後続でやって来る583系秋田車の団体臨時列車も撮影します。わずか1時間足らずの撮影ですが何とも充実していて嬉しいですね。同じくして雪煙を舞い上げながら、日本海を背に駆け抜けてきた583系の姿に、私は酔い痴れてしまったのでした(755通過)。

そうして撮影は終了と相成りました。御一緒した皆様、お疲れ様でした。急いで片付けて吹浦駅に引き返すとします。ここは隣の女鹿駅の方が断然近いのですが、こちらは1日3本程度しか普通列車が停車しないために、仕方無いというわけです。ところが来た道を戻っていたところ、実に有難いことに御一緒した方の一人が声をかけて下さり、車に乗せて下さるとおっしゃいます。折角ですから御言葉に甘えて、吹浦駅まで乗せて頂くことになりました。鶴岡から来た方とのことで、毎週末撮影にいらっしゃているようです。そして駅には数分で到着。本当にありがとうございました。厚く御礼申し上げますm(_ _)m

日はすっかり昇り、晴れ間がのぞいていました。

写真:特急日本海@吹浦〜女鹿
日本海を横目に、厳冬の羽越本線を駆け抜けてゆく。

4537文字

コメント

nophoto
Sasa
2008年2月22日21:53

日本海と583、羨ましい限りです。
EF510は最近になって運用範囲を拡大したんだとか。

くはね
くはね
2008年2月23日21:16

どうもどうも。EF510の件は知りませんでした。

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